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いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね? 上条「何か日が当たるようなったなここ?」美琴「え? ええ、そ、そうね、来た時より明るくなったわね」上条「んー。つう事はあれか? 何か期待されてるって事なのか? 俺たち」美琴「え? さ、さあどうかしらね」美琴(期待って……。一体何期待されてるっての!? 大体、いちゃいちゃって、やっぱ手ぇ繋いで公園歩いちゃったとかそー言う事なのかしら……)『ジ……(上条の右手をガン見)』上条「何見てんだ御坂?」美琴「は……? え、えええ、えーと……。あは、あははははは……、取り合えず、えいっ!」『バチッ』上条「うおっ!? 危ねぇ! 何しやがんだ急に、このビリビリ娘はっ!」美琴「ビリビリって言うなってんでしょうが、このバカァァァアアア!!」上条「おまっ! 電撃飛ばしといて今度は逆ギレですか!?」美琴「何よ、ちょっと電撃飛ばしたくらいで一々ギャーギャー騒ぐんじゃないわよ、小さい男ね! どぉーせその右手のおかげで効きゃしないんだからどぉでもいいでしょうが!!」『ダンダンッ!(足踏み)』上条「被害を受けた上に非難まで受けるとは……。ふ、不幸だぁ……」『ガク……』美琴「フンッ。(ど、どうやら誤魔化せたみたいね……)」上条「あー……、カミジョーさんは今ので非常にショックを受けました。ですので、今日はこのまま帰ってよろしいでしょうか? ええ、いいですよ。はいそうですか、では皆さんさやうなら……」美琴「コラコラ。アンタは何勝手に締めくくって帰ろうとしてんのよ? 私はどーすんのよ? わ、た、し、は」上条「お前も帰ればぁ? ハァ……」美琴「あ、ちょ、もうっ! ちょ……とぉ、ま、ち、な、さ、い、よぉ……」『ぐぐぐ……(上条の腕を掴んで踏ん張る)』上条「何だよ御坂……。今日のカミジョーさんは傷心旅行に出たいくらいブルーなんですのよ? ただ傷心旅行に行く金なんかこれっぽっちも無いから、取り合えずスーパーの特売にでも行ってこようと思ってるんですがね?」美琴「そ、それって私より大事なの!? (い、言っちゃった!?)」『カァ……ッ』上条「はあ? あの……、仰っている意味が良く判り兼ねるのですが?」美琴「…………」上条「あの……、御坂?」美琴(これ以上言っちゃダメ! 私が期待しちゃう! 私がコイツに期待しちゃうからっ!! と、とにかく、とにかく何か言わないと……)上条「もしもーし」美琴「え、あ、え、えーと……ね。その、あの、何て言うか……」『モジモジ……』上条「ああーっ!!」美琴「ふえっ?」『ビクッ』上条「御坂!!」『ガシィィッ!!(美琴の両肩をホールド)』美琴「ハイッ!!」『ビクッ』上条「また『ゲコ太』か? そうなのか? そうなんだな?」美琴「え! えぇ!?」上条「やっぱりそーなんだなー。おかしいと思ったんだ。お前がこんな変な企画にホイホイ乗ってくるなんて。考えてみたら前回の罰ゲームん時もそうだった。その前は、海ば……ま、あれはいいな。あれはノーカンだな。ノーカンノーカン」美琴「あ、あの…」上条「お前ホントゲコ太好きなんだなー。よし判った! 他ならぬ御坂の頼みなら聞いてやらない事も無い事も無いの反対だからアリだ!!」美琴「え……、ちょ、ちょっと……」上条「インデックスの事では、随分と借りがあるからな。あん時は罰ゲームやら、その後のごたごたやらですっかりうやむやになっちまったけど、俺は忘れてたわけじゃ無いんですよ?」美琴「そ、そんな……私は別に貸したなんて……」上条「じゃ、要らないとか? 流石見た目通り太っぱ――」美琴「それ以上言ったら許さないわよ」『ゴゴゴゴ……』上条「ひゃい!?」美琴「フン」上条「ハァ……、で、どうすっかねこれから」美琴「え?」上条「やっぱあれかね? いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね?」美琴「ハイ! 先生!」『ビッ』上条「はい、御坂君」美琴「AとかBとかCって、何?」上条「あ、あ……」美琴「何でそこで遠い目すんのよアンタは?」上条「ぅぅぅ……。ごめん、別の事考えっから許してくれ!」美琴「ほほ……う……」上条「な、何っ?」『ビクッ』美琴「私に言えない事、な訳ね?」上条「あ、あ……、え、え……」『タラ……(冷や汗)』美琴「ゆったんさい。先生怒らないから」上条「とか言って怒るじゃん。俺の経験則から言って、それ言って怒らなかった人皆無――」美琴「じゃ、判るわよねぇ? 言わなくても怒るって……」『ギロッ』上条「ひっ!? ふ、ふこ、不幸だッ」美琴「男なら覚悟を決める。ほら、さっさと全部吐いて楽になったらどうだ?」上条「何? その電気スタンド俺に向ける様なポーズ? べ、弁護士呼んでくれよ刑事サン!? こ、この人暴力振るう気だよ! 自白強要だよ!!」美琴「は、や、く、い、えっ、て、の!」上条「痛ッ!? 痛い痛い!! 暴力反対!! つねるの禁止!! 人類みな兄弟ッ!! 痛ッ!! 喋る、喋るからつねるの止めて!!」美琴「最初っから素直にしてりゃ痛い目見ないで済んだものを……」上条「(こえーよ御坂、きっとコイツの前世ってナチスのSSか何かだよ……)」美琴「誰が第三帝国の手先ですって? 馬鹿言ってないでさっさと白状する」上条「ぅ。じゃ、怒ったり驚いたりすんなよ。暴力も禁止だからな!」美琴「アンタに隠し子がいるって聞いても取りみだしません」上条「いや、それは驚こうぜ――じゃ、話すけど、ABCってのは恋愛の順序を顕わしたものなんだけど……」美琴「うんうん」上条「ABCは3段階の順序を表してるんだ」美琴「それでそれで」上条「え……。まず、A。これがキス」美琴「うん。Aがキス。……、…………」『ボンッ』上条「ほらぁ。またふにゃぁか? いいぞ、大丈夫だ、問題無い。(その方が俺も助かる)」美琴「たひっ、たひじょぶだから、つづけへ」上条「うっ。じゃ、気をしっかり持てよ」美琴「ふ、ふひゅん」上条「(大丈夫かコイツ)じゃ、Bな。ペッティング。Hの前戯とか――」美琴「あう゛」『ブシュー』上条「み、御坂っ!!」美琴「らいじょーぶ、らいじょーぶよー」上条「はぁ、これじゃ何時ゲコ太ゲット(いちゃいちゃ)出来るか判んねーなー。ってか出来るのか?」結局Bまで聞いた所でダウンした美琴は、上条さんの膝枕で、上条の上着を掛け布団代わりにお休み中。一方、上条は、そんな美琴の寝顔を時折覗き込みながら、色々と思案中です。上条(何か妙に熱い視線を感じるなー。つーか、いい加減起きねーかな御坂? こんなトコでいつまでも寝てっと背中イテーだろうし……)上条「おーい、御坂? もしもーし。早く起きねーと、風邪引きますよー」『チョイチョイ(頬をつつく)』美琴「うーん……。むにゃむにゃ」上条「なんつー幸せそうな寝顔です事……」上条(んー、起きねえなー、やっぱり。どーすっかなーこれ?)上条「いっそ抱き抱えてコイツの寮まで……。いやいや待てよ?」上条(そんな姿を土御門やら青髪やらに見つかったら? いや、ぜってー見つかるに決まってる。んでアイツら俺の事目ぇ血走らせて追いかけ回すに決まってんだ。それで逃げ切ったとしても、後である事無い事言いふらさまくってみろ……!?)上条「カミジョーさんのバラ色――予定――の恋愛模様が!? 神聖な花園が土足で踏みにじられてっ!! うっがー! 不幸だぁ――――――――――!!」上条『ゼエ、ゼエ』「こ、こうなったらヤルしかねえ。鬼になれ――。血に飢えた獣になれ、上条当麻ッ!! そして奴らの喉笛をガブーッと……」美琴「…………」上条(あれ? いつの間に目を覚ましたんだコイツ?)上条「みさ――」美琴「イヤッ!!」『ゴンッ!(垂直アッパー)』上条「はぐっ!?」美琴「ぁ……」上条「な、ないひゅあぱぁ……、ふこ……」『ドサッ(親指を立てながらゆっくりと崩れ落ちる)』美琴「あれ? あ、あれぇ?」美琴(私一体どうしたんだっけ? 落ち着いて思い出せー……。確か、コイツがAとかBとかおかしな事言いだしたんだったわ。それで……)『もそもそ』美琴「これ……。ぇ?」美琴(学、ラン……?)『ギュ―――――ッ(思わず学ランを引き寄せて丸まる美琴)』美琴(はぁ、こんなモノからもでもアイツの無駄な包容力を感じるのねぇー……)美琴「って!? な、何考えてんの私!? ち、違うのっ!! こ、これは寒いから!! そう!! 寒いから思わずあったかいなぁー、なんてっ!! はは、あはは、あはははは……、はは、は、は……」『スリスリ(空笑いしながら上条の膝をなでる)』美琴「!!!」『ガバッ!! ズサササササササッ!!』美琴(な、何でわ、わた、わた、わた……)美琴「ふにゃあ」『ゴンッ!』美琴「あだっ!? ぅ……、頭が割れる……。不幸だわこれ……」『すりすり(自分の頭をなでる)』美琴「!!」『ババッ! バババッ!!(高速で自身の身だしなみチェック)』美琴「ふー……、おかしな所は無いみたいね……」『ガックリ』上条「う、う……」美琴「あはははは。ま、まあ、アレね。は、初めてが気付かないうちに終わっちゃいましたじゃ、ああ、あんまりにも情けないもん……ブッ!?」『カァァァァァァアアアアア……(ゆでダコの様に真っ赤)』上条「不幸だ……。まだ顎がガクガクする」『コキコキ』美琴「ふぁ、ふぁたひは何期待してんのひょ? あ、あんにゃヤツ……、あんにゃヤツゥにはひ……」上条「あの右は絶対世界に通用するよ。日本初のヘヴィ級王者誕生ってか?」美琴「誰がヘヴィ級じゃゴラァ――――――――――ッ!!」『ガシッ!!(タックル&馬乗り)』上条「うわっ!? み、御坂!!」美琴「アンタはこんな時まで私の事スルーなんかっ!! ス、ル、ウ、な、ん、かァァァァァァアアアアアア!!」『ガクガク(マウントから胸倉を掴んでゆする)』上条「な、ん、の、は、な、し、だ、や、め、ろ、お、お、お、お……」美琴「ざけんじゃないわよこのっ!! パンチは褒めて、体は放置ですって!? こんな目の前に美味しいそうな女の子が転がってたら、唇の一つや二つや三つ奪うのが漢(おとこ)の筋ってもんでしょうが!!」上条「ま、待て御坂、お、お前言ってる事がおかしいって」美琴「何がよっ!? AとかBとかCとか!! とにかくアンタが先に言いだしたんだから、さっさと責任とって私に実践してみろってのよ!! この据え膳食わずの甲斐性な――」上条「落ち着け美琴ッ!!」『ギュ(持ちつかせようと抱きしめる)』美琴「ッ!?」『ビクッ』上条「美琴、ちょっと落ち着こうな。ほら、女の子のマウントポジションはカミジョーさん的には嬉し恥ずかしシチュエーションながら、取り合えず上から降りて」美琴「う、うん……」『ボボボボボ……』上条「よし美琴。で、何だって? 俺と、その、AとかBとかどうしたって?」美琴「え? そ、それは、えーとぉ……」『ザァ―――――(一気に血の気が引く)』上条「はぁ……、いいよ。言わなくて」美琴「へ?」上条「あのさー。お前、もう少し自分を大事にしろよな。ゲコ太ゲコ太ってそんなにお前にとって大事なのか?」美琴「え? え?」上条「まー、ふった俺が悪いんだけどさ。よく無いだろ? そう言う事は、好き同士がしなくちゃな」美琴「ちょ、ちょっと待って! 何か話がおかしな方向に行って――」上条「とにかく今回の目標は何だ! ヨシ! 美琴クン言ってみたまえ!」美琴「へ? あ? い、いま、美琴って呼ん――」上条「それはいいから答えたまえ!」美琴「あ、はい……。い、いちゃいちゃ……、する?」上条「そう! 正解ッ!」『ビシッ』美琴「ふえ?」上条「では第二問! 我々がいちゃいちゃするための障害を述べよ!」美琴「え……、ア、アンタの女性遍歴?」上条「ぐはっ!? そ、それは誤解が六回ですのよ御坂さん。ぼ、僕は決して優柔不断なハーレムキャラではございませんし、そもフラグ男などと良く言われますが、けっしてそれが良いのかと言えば、たまに発生する桃色イベントぐらいで、その後は、もう、もう……。あ、心の汗……」美琴「(ウ、ウザい)」上条「ぐぞ……。俺だってなぁ。俺だって、ホントは恋愛したいんだぜ。誰はばかる事無くキャッキャウフフしてえんでございますよ!!」美琴「え!? そ、それならわたし――」☆「それには及ばん」『グゴゴゴゴゴゴ……(床からせり上がる水槽。そこには逆さに浮かんだ、男にも女にも以下省略)』上条&美琴『ビクッ』「「ア、アンタだれ?」」☆「気にする事は無い。そうだな。上条当麻君。君の先輩、とだけ言っておこう」上条(先輩……? 学校にいたかこんな変な奴……?)☆「特に意味は無い。一つ付け加えるなら、学校ばかりとは限らん、と言う事だ」上条「は、はあ……」美琴「あの……」☆「何かね?」美琴「さっきの言葉の意味って?」☆「言葉どおりだ。君たちは君たちの思うままに青春を謳歌したまえ、と言う事だ」美琴「え、それってどう言う意味……?」☆「学園都市第3位の割には飲みこみが悪いな。それとも聞き返す事に何か意味があると取るべきかな?」『ニヤリ』美琴「んなっ!? ちょ、ちょっと、今の言葉取り消しなさふががっ!?」上条「わ、判りましたっ! 自由にしていいって事ですよね!」美琴「むがあ―――――!!」☆「君は物わかりがいいな」上条「ハハハハ。よ、良く言われますぅ」☆「(これで、後回しに考えていたプランが大幅に短縮される)」上条「え?」☆「若者が細かい事を気にするな。では、存分に励みたまえ。成功を期待している」『グゴゴゴゴゴゴ……(水槽が床に沈んで行く)』上条「はぁ……、何だったんだ一た痛ッ!!」美琴「ぷぇ。口離せこの馬鹿ぁ!!」上条「だからって噛む事ねえだろ?」美琴「ざけんじゃないわよ!! アノ金魚ヤロー、私の事見て笑ったのよ!? タダじゃおかない!! 今すぐ床ぶち抜いてあのクソ水槽から引きずり出して3枚にオロシテやるんだからっ!!」上条「物騒な事言ってないで外行くぞ、外」美琴「は、な、せっ、て、の、が、わ、か、ん、ねーのか、アン、きゃ!?」『ガバッ(上条にお姫様だっこされる)』上条「ああ、判りませんねー。猛獣ビリビリ中学生のたわ言など」美琴「ま、またビリビリって!? アンタまで私の事馬鹿に、きゃああ――――!?」『グワッ(上条がぐるぐる回りだしたので思わず首にしがみつく)』上条「大人しくしないと、ぐったりするまでメリーゴーランドの刑にしますよぉ――――?」美琴「わ、判った、判ったから、回るの、きゃああああ!?」『グルン(今度は逆回転)』上条「判ってくれた?」美琴「判ったって言ったでしょぉぉおぉおおお!? だ、だから、だから早く止め、きゃああああああああああああ!!」美琴(ふふ。ホントは全然平気なんだけど、面白いからもう少しこのまま)『ギュ』美琴「(べ、別に気分転換に抱きついてる訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!)」『ギュ――――ッ』上条「どうだ御坂ぁ!! こ、これが上条ハリケーンだぁ―――――――――――――!!」美琴「やめてとめて、きゃああああああああああああ―――――!!」『ギュギュッ』謎の部屋を抜け出した2人は、☆の言った通り好き勝手する事にしたのだが。美琴「どこ向かってんのよ?」上条「取り合えずスーパー」美琴「スーパー?」上条「そう、スーパー」美琴「先生質もーん!」『バッ』上条「はい、美琴君!」美琴「美こっ!? み、みみ、美ここ……」上条「巫女? 姫神の事か?」美琴「違ッ!? って姫神って誰?」上条「うちのクラスメイトの巫女さん。これがまた格好とは正反対の何と言うか何と言うか、色々残念な感じなんだよ」美琴「いつの女?」上条「は?」美琴「いつ助けた女なの?」『パリパリ……』上条「ぇ……」(何怒ってんだコイツ?)『ジリジリ……』美琴「私より先? 後?」『ギロッ』上条『ゴクッ』「さ、先」美琴「どっちのが大変だった?」上条「へ?」美琴「どっちのが手間かかる女だったのか聞いてるのよ?」『ピシッ』上条「ひぇええ!? ひ、姫神っかな? そん時俺、右腕もげて死にかけたし。あ、でも、お前ん時も、全身打撲で毛細血管バンバン弾けてやっぱ死にかけだったしな」美琴「…………」上条「え? 何? 良く聞こえな――」美琴「馬鹿っつたのよ、このトウヘンボクッ!!」『バリバリバリッ』上条「ぬおぅわっ!! 御坂お前、急な電撃は止めろって――」美琴「死ぬわよ」上条「は?」美琴「アンタなんかホントはぜんっぜん弱いんだから、いつか死んじゃうわよ!!」上条「あの……、急にシリアス?」美琴「茶化すんじゃないわよこの馬鹿ぁ――――――――――!!」『ドスッ(頭から鳩尾に体当たり)』上条「おふっ!!」美琴「勝ち逃げなんかしたら許さないんだから、ぐすっ、ぐすっ」上条「不幸だぁ……。って、あれ?」美琴「ぐすっ、ぐすっ……」上条「あの……」美琴『キッ』「ぐすっ、ぐすっ……。何よぉ、すんっ、ぐすっ」上条(何ですかこの修羅場……?)『ポリポリ(上条困った顔で頬をかく)』「ふぅ。あのな、美琴」『パシッ(美琴のの頬を両手で挟んで)』美琴「ふきゅい!?」上条「俺を勝手に殺すな」美琴『コクコクコク……(目だけでうなずく)』上条「まあ確かにお前が言う通り、俺も毎回生き残る度に、は、まぁ本当によくもって思うのは確かだよ。だけどな、『死ぬ気で頑張る』とか、『死んでも頑張る』とか、そー言う言葉は、俺の辞書にはねーんだわ」美琴「…………」上条「それでもお前が不安に思うなら約束してやる。勝ち逃げはしない」美琴「で、出来ると、思ってんの?」上条「ああ出来る。信じてるからな――仲間を」美琴「ッ!? そこ……ぁ……」(聞けないっ! 仲間(そこ)に私はいるのかなんて……)上条「頼むぜ美琴」美琴『ぽわぁぁぁぁぁ……(星と花を散らせた蕩ける様な満面の笑み)』上条「それにはまず泣き虫治してくれよな」美琴「ハッ!? うっさいうっさいうっさーい!! も、当麻のくせに生意気なのよっ!!」上条「ハハッ、その調子で頼むぜ御坂。天下の学園第3位様には、涙より元気いっぱいのが似合ってるぜ!!」(あれ? 今名前で呼ばれた様な気がすっけど……)取り合えず仲直り(?)した2人は、当座の目的地、『スーパー』に向かっていたのだが……。美琴「ねえ」上条「…………」美琴「ねえっ!」上条「…………」美琴「この状況ですら無視すんのかコラァ!!」『バシバシ』上条「って!? 何なんですかお前は? 反抗期ですか?」美琴「呼んでんだから返事くらいしろっ!!」上条「ああ……、わりぃわりぃ。で、何んだ?」美琴「えっ、あ、あのぅ……」『モジモジ』上条「どうした御坂? 顔なんか真っ赤にして」美琴「え……あ、えっ、あぁ……」(「何で私の手を握って歩くの?」って聞きたいのに言葉が出ないっ!?)『チラ、チラ(目線が手と、顔と、何も無い空間を順番に追う)』上条「ああっ!!」美琴「!!」『ビクゥ』上条(トイレ、だろ? この様子、きっとそうだ。そうに違いありませんぜ、とカミジョーさんの中の紳士な部分が申しております)上条「わりぃわりぃ。え、えーとー」『キョロキョロ』(ここは自然に俺がトイレに行くふりをして……。お! おあつらえ向きの店があるじゃんよ)「美琴わりぃ。ちょっと寄り道いいか?」美琴「え? あ、ちょ、ちょっとぉ」『タタッ、トタタ、トタッ……(上条に手を引かれてよろける様に後について行く)』 そうして2人が入ったのは、とある大型ショッピングセンターの1階。しかも入った場所が悪かったのか、上条の運(ふこう)のなせる技か、この日の1階はフロア全てで女性用インナーを扱っていたのだ!!上条(うわっ!? 何でこんなッ!! ク、クソッ、き、気にするんじゃ無い上条当麻。無心!! 無心になるんだ)『スタスタスタ……(斜め下を向いて視野を極力狭くして足早に歩く)』美琴(やっ、ちょっ、あのニーハイかわいい……。このショーツのひらひらもステキね……。でもどうしてこんな所……? ハッ!? も、もしや……)『カァァァアアアアア……』美琴「ねぇ……」『モジモジッ』上条(見るな感じるな考えるな。アレには中身は入って無い。ただの布切れ、ただの布切れなんだ!)『スタスタスタ』美琴「あの、さ……。私も最近黒子の奴に毒されて来たのかな? その……、たまには大人の下着なんてもの、その、いいかなあ、なんて……」『モジモジッ』上条(あの黒いガーターベルトも、スケスケのキャミソールも俺には見えない! 見えないんだぁぁぁああああああああああ!!)『スタスタスタ』美琴「それでね、もし、やっぱさ、そう言うの買うならさ、い、異性って言うの? ほら、黒子とかじゃ色々と危険だし? と、年、う、上の意見なんかも参考にし、しし、したいし?」『モジモジッ』上条『ビクッ』(くあっ!! ば、馬鹿なっ!? 何ですか? 何で下着姿のオネーサンが頬笑みながら目の前を横切るんでせうか!? ここは桃源郷? いや馬鹿止めろ俺の心!? 無心だと言うのが判らんのかっ!!)『タタタタタ(上条、小走りになる)』美琴「でさ、か、かかか、勘違い、し、しな、しな、しないで聞いて欲しいんだけど。さ、参考に、ア、アアア、アンタの意見聞かせ……て……ほしい、かな? なんて……」『モジモジッ』上条(ヒッ!!)『ビクッ』「ノーパン……」美琴「ノ、ノーパンッ!?」『ビクッ』上条『ガクガク(目の前を通った超シースルーショーツ『羽衣』を着た女性を指さして震える)』美琴(そ、そんな高いハードル、き、急に飛び越えろって言われ……ハッ!? これは試練? 私は今パートナーとして試されてるの……?)上条『ギギギギ……(上条の首がぎこちなく回る)』「みさか……(棒読み)」美琴『ビクッ』「え! あ!? あの、わ、私頑張るからっ!!」『グッ(拳を握る)』上条「むりはするな。せかいがちがうんだ。わすれろ。おれもわすれるから(棒読み)」美琴「だ、な、何言ってんのよ? だ、大丈夫だから。ほら、今証明して見せるからっ!」『パッ(上条の手を解く)』上条「?」美琴「み、見ないでよねこっち……っと、よっ、と……」『モソモソ、ゴソゴソ(上条から見えない角度で、何やらスカートに手を突っ込んでくねくねしている)』上条「お、おい?」美琴「お手」上条「お手」美琴「はい」『パサ』上条「何これ?」美琴「証明」上条「何だよ証め……(手にしたものを広げると、見た事のある短パン)ぶっ!? こ、こりゅえ!!」『ボフン(真っ赤)』美琴「今はこれが精一杯――無くさないでよね。い、ち、お、う、返してもらう予定だから」『カァ――――ッ(上条以上に真っ赤)』上条『コクコク(短パンを握りしめてうなずく)』美琴「オッケ。じゃ、そ、その、恥ずかしいから、もうしまってくれる?」『モジッ』上条「お、おう、わりぃ……」『ゴソゴソ』美琴(ポケットに仕舞った……)『ボフッ』上条(何やってんだ俺? 御坂の短パン、ポケットにねじ込んで……。しかも、この状況になんかドキドキしてないかぁぁぁあああああああ?)美琴「ねえ」上条「ひゃい!?」『ビクッ(右腕に美琴がしなだれかかって来たので)』美琴「折角だから、ここ、回ってもいい?」『ギュ』上条「お、おう」(む、胸ッ!? 胸ェッ!?)美琴(おかしいわね? こう言う時は必ず邪魔が入るモンなんだけど? ま、いいわ。今はこの時間を楽しみましょ)白井「今日は一体全体何なんですの!? つまんない事件ばっかりあちこちあちこちあちこちと――」初春『白井さん、そんな事言ってないでさっさとお財布探して下さい! 中に入ってる映画チケットで入館出来る時間は、あと30分切ってきゃ!?』白井「初春?」××『その映画は超レアなんです。これを逃すと次はいつか分からないんですよ! 本当に超よろしくお願いします!!』初春『だ、か、勝手に通信しないで下さい! 白井さん、そう言う事らしいんでよろしくお願いしますね!』『ブツッ』白井「ホント何なんですのよ今日は?」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン) 第12話 一方通行(4) <絶対能力者進化実験 後日談> 所長:御坂君、お疲れさま。まずは、ミッション・ コンプリートおめでとう。 美琴:デモよりマスコミの報道が多くなりましたが、おおむね想定内でしょう。 所長:まあ、研究所の基金も1兆円単位で増えたし、まずは天井君 以外はめでたしめでたしだな。 で久しぶりに一方通行でも会うかい? 美琴:しばらく冷却期間をおいたほうがいいと思っています。 で実験はどうなります? 所長:妹達の管理は我々が引き継ぐこととなった。 もちろん御坂君にはその必要がないから妹達は殺さない。 あ・・御坂君は知っているかな? 布束君だ。今日からここで働いてもらう。学習記憶装置いわゆる テスタメントの開発責任者で言語学・大脳生理学のプロだ。 妹達の管理をしてもらう。 それと、妹達は調整後全世界の協力機関へ散らばってもらう。 すべて理事長の許可は得ている。安心してくれ。 あそれと、これ辞令ね。 御坂美琴殿、貴殿をプラズマ・応用電磁力研究所 副所長兼主任研究員に 任命する。 所長木原 ** それから常盤台だけど9月末で、卒業していいよ。 もういいだろう。もちろん卒業試験は8月中に受けてね。 常盤台校長には昨日私から連絡しているから。 美琴:では10月以降は、9時から18時勤務 週休2日ですね。 所長:ああ、正式に職員だから。それと、学籍だが、長点上機大学院ということにしてお くから。1月に試験だけ受ければいいから。こっちに専念して。 じゃ。。まずは副所長就任おめでしょう。「御坂美琴」さん 美琴:あ・・「御坂君」でいいですよ。所長 所長:そーかい。いや・・親しきなかにも礼儀ありだ。御坂さんに変えるよ。 美琴:わかりました。所長明日、上条当麻の退院日なので、家まで送ります。 所長:そう明日は1日休みでいいよ。 美琴:いいんですか?研究が? 所長:超能力者だって風邪くらいひくだろう。欠勤届出しときゃいいよ。 美琴:所長ありがとうございます。 美琴は、辞令を鞄に入れ、所長へ深々と90度の最敬礼をした。 そして、所長室の右手でドアハンドルを握り退室した・ そして明日の会う人物の顔を思い描いた。 上条当麻か・・・、 私が介入しなければアンタはどうするつもりだったの? なにもNo Idea で、関係者を「そんな幻想はブチ壊す」て言って ただ右手で壊すつもりだった? でもさ、アンタに救出された妹達の世話なんてできる?猫じゃないのよ? 一万人の人なのよ? 食わせるだけで年間約100億円 衣食住を提供し、居場所を与え、それだけでも、最低年間500億の生計費がいるわ? アンタにそれができる? できないわよね。 仕方ないわね。 あんたはその力に見合う、教育を受けていない。 あんたは、その力に見合う、収入を得ていない。 あんたは、その力に伴う、責任をだれにも追っていない。 つまりね所詮アンタは偽善使いにしかすぎないのよ。それが現実。 アンタの努力は、結局目の前の誰かしか救えない。 アンタはまだ、神様になるには修行が、経験値が決定的に足りないのよ。 上条当麻、私がアンタを変える。 私がアンタを真人間に変えて上げる。 アンタに約束する。 アンタにその圧倒的な力に見合う教養を身に着けさせる。 アンタにその圧倒的な力に見合う収入を与えてあげる。 だから アンタはその圧倒的な力に見合う責任を負わなきゃいけないのよ。 翌日7月25日 午前9時 冥土帰しの医師の病院 美琴:上条さん先日は大変ご迷惑おかけしました。 当麻:あ・御坂さんか・・いや驚いたよ。あんなに簡単に両手切断されてさ・・ 御坂さんて本当強いね。さすが・・1位様だな。俺さ幻想殺しに結構 自信あるんだけど、はあ・・俺の幻想がぶち殺されたな。 なさけねな。 手の事ならいいぞ、いや実験で模擬戦なんだからさ・・ 御坂さんの綺麗な顔に傷をつける可能性もあったわけだし。 それに契約金500万、慰謝料500万もらってんし、まあ手も しっかり治ったのでいいさ。それに正直家計が苦しいので 助かります。 美琴:そうですか・・でも後遺症もなく治って本当よかったです。 当麻:御坂さん、もしよければ、・・また模擬戦に呼んでくれません? なんかあんな惨敗じゃ・・上条さんの小さなプライドはボロボロ なんです。 美琴:そうですか、所長に話はしましょ。ですが。。その前に 上条さんには、片付ける課題があるのでは? 当麻:課題? 美琴:実は私の寮監と上条さんの御担任の月詠先生が知り合いだそうで、 それで、先日月詠先生に今回の実験の件でお詫びに伺いましたところ 開口一番「上条ちゃんには困ったもんなんです」成績は下から数えたほう がいい惨状・出席不足、正直レベル0なんですから、せめてまじめに勉学 だけでもしないと言い訳できません」とおしゃっていました。 それで、「レベル5の御坂ちゃんに、ぜひ上条ちゃんの家庭教師をお願いします」なん て言われてしまいました。 つまり・・来週から上条さんの課題を教えてあげます。 当麻:へ?中学生が高校生の課題? 美琴:・・これは私が先日受けた学園都市大学入試総合模擬試験の結果です。 当麻:えーと御坂美琴、・・604371人中総合1位? 1000点満点で評点999点、平均点495点 偏差値90.3 はあ・・?つまり全部の中・高校生の中で1位て事? は・・容姿端麗・才色兼備・文武両道か ・・でそんな完璧お嬢様が勉強を見てくれる。と。 美琴:そうゆうことです。楽しみにしていただけますか? 当麻:宜しくお願いします。「御坂先生」 美琴:ふふ上条さん「御坂先生」なんて照れますね。 いっそ 「美琴」なんて呼んでいただけません? 当麻:いいんですか?超のつくエリートの御坂先生を美琴なんて呼んで? 美琴:これから夏休みの午前中は一緒なんだから堅苦しいのはなし。美琴と呼んで いただけます?私は「当麻君」と呼びたいので。 当麻:へ・・当麻君、御坂先生 ご冗談を・・ 美琴:当麻君 御坂先生はなしよ ・み・こ・と 美琴と呼んで ・・ダメ? 当麻:ダメ?・・ダメじゃないです。むしろいいです。 美琴:じゃ・・タクシーまたせているから いきましょ。 「当麻君」 当麻:じゃ・・みさ いや美琴いこう。 ふふ・・第一歩を踏み出したわ。 上条当麻・・アンタは私のものになるのよ。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン)
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11月22日は何の日? いちゃいちゃ年末年始! 1月2日。上条当麻と御坂美琴の夫婦生活は5日目。元旦で夫婦生活4日目である1月1日は深夜に寝たために起きるのが正午近くになってしまい、御坂家にいる親御さん達も昼は初詣などに出かけていて改めての挨拶だけで終わった。 しかし昨日の夜に美琴は初めて上条のワイシャツを攻略。頭からプスプスと湯気を出すもレベル5の名にかけて4日連続ふにゃーはプライドが許さない。…まぁ、上条の前に最早プライドも何も無くっているような気もするが。 そして今日は神奈川を出て学園都市に戻る日である。レベル0の上条はそれ程外出許可に厳しくされないが、7人しかいないレベル5の美琴はそうはいかない。29日から2日までの5日前後がギリギリらしい。 学園都市から実家に帰ってくる時もそうだったが結構な移動距離なので、門限がある美琴の事を考えると早めに出たほうがいい。 しかし今や愛の巣と化している上条のマンションを美琴がそう簡単に出るわけ――― 「美琴ー、そろそろ出るぞー」 「わかったー」 ―――ないのだが、何故かすんなりまとめてあった荷物を持って玄関にやってくる。あやしい。 「ねぇねぇ。この表札貰って行っちゃってもいい?」 「ん? 別にいいと思うけど…、どうするんですか?」 「…当麻の部屋に―――」 「ダメ」 「うっ」 表札とは美鈴が用意したのであろう『上条 当麻 美琴』の表札。それは部屋のネームプレートみたいに作られた板状のもので、それを外すと『上条』の文字が出てくる。 上条の寮には使えそうにない表札だったが、美琴は「裏に両面テープを張る」だとか何とか言っている。もし仮に隣の土御門に見つかったり他の寮生に見つかろうものなら上履きの中に画鋲だろう。教室の椅子にも画鋲だろう。それは多分痛いので美琴には分かってもらわないといけない。やっと和解したばかりなのでね。 「じゃあ磁石付けて冷蔵庫につける」 「まぁそれくらいならいいけど」 「えへ」 美琴はその表札を大切にゲコ太タオルで包むと上条のバックの中に入れた。何故上条のバックなのかと言うと、美琴のバックは昨日のうちに今日の着替え分だけ出して学園都市の常盤台女子寮に郵送したのだ。やたら本が重いので。 「また来たいね」 「そうだな。夏休みにでもまた来るか」 「ホントに? やった」 「じゃあ行こうぜ。父さん達が待ってる」 「うん」 上条はそう言うと先に歩きエレベーターのボタンを押す。美琴はやはり少々名残惜しいのかしばらく部屋の中を見ていたが、上条に呼ばれたので鍵を閉めて走ってきた。 エレベーターの中で美琴は上条の腕に抱きつき幸せそうに笑っている。 「…どしたの美琴たん」 「えへへ、別に」 マンションの前には既に刀夜達が待っていた。刀夜は寒そうに手に息をかけ暖めており、詩菜は美鈴と何やら世間話でもしてるのか、旅掛はタバコをすぱすぱと吸っていた。 上条と美琴は刀夜達と合流すると駅に向かって歩き出す。その時に通る御坂家もしばらくは見納めだ。改めて見ると隣の家よりも1.5倍は大きい。流石です、旅掛さん。 「美琴ちゃんよく帰りたくなーいってだだこねなかったね」 「そっ、そんな子供じゃないわよ! …あ、詩菜さん。ありがとうございました。これ部屋の鍵です」 「はい。美琴さん、楽しめましたか? また来てくださいね」 「は、はい。絶対来ます!」 「美琴ちゃんもお母さんにそれくらい優しければ―――」 「…何か言った?」 「イイエ。ナニモ」 「ったく…」 「うぅ…、当麻くん。美琴ちゃんがいじめるー」 「え? だめだろ美琴」 「あぅ…」 美琴のプレッシャーに美鈴は上条の後ろに隠れ、弱点をつく。今この状態なら美琴はグー、美鈴はチョキ、上条はパーなので美琴は上条に勝つことは出来ない。 上条はそのパーの右手で美琴の頭を優しく撫でると美琴はもう戦意喪失してしまう。美鈴には子供じゃないと言うが、美琴はまだまだ頭を撫でられただけで喜んでしまうお子様だったのだ。 ち、違うわよ? 私は喜んでるんじゃなくて…そう! 効かないから! 当麻の右手には何も効かないからごにょごにょ…。 「あはは、美琴ちゃんは相変わらず当麻くんには弱いのね。これから何かあったら当麻くんに助けてもらおう」 「なっ…! ひ、卑怯よそんな―――」 「あー、当麻くんたすけてー」 「落ち着いて、美琴たん」 「うっ」 もう美琴は美鈴に勝てる事はないだろう。もともと美琴の考えてる事をピンポイントで当ててくる母の勘に加え、美琴が手を出せない上条も味方につけられてはもうあうあうするしかないのだ。あうあう…。 「ここまででいいよ、ホームまでだとお金かかるしさ。ありがとな」 上条は11月22日の時に言ったような言葉で見送りを感謝する。時刻は昼前な事もあり、皆初詣に行ってるのか駅には疎らにしか人はいなかった。これから遠出をする人は少ないだろうが、帰省を終えた人なのか大きなバックを持ってる人などがいる。 時刻表を見るとあと5分後くらいに丁度いい学園都市方面の電車が出るらしいので、これに合わせる事にした。 「じゃあ…、また夏休みにでも帰ってくるから」 「おぉ、待ってるよ。元気でな、当麻。美琴さん。体に気をつけて」 「元気でね当麻さん。美琴さん」 「は、はいっ。お世話になりました! また必ず―――」 「美琴ちゃん…しばらく会えないパパにさよならのチュいでででででっ!」 「ま・た・ね」 「うぅ…」 「私も大学で近くに行ったら遊びに行くねー。んー、そうね。その時は当麻くんのお部屋に泊めてもらおうかな」 「なっ!? そ、そんなのダメよ!」 「何で美琴ちゃんがダメなのよ」 「うっ…そ、それはその……あぅ」 「あはは、ほら。長旅なんだからトイレ行っといた方がいいわよ。行った行った」 「はい。じゃあ父さん、母さんまたな。美鈴さん、旅掛さんもお元気で」 「わっはっはっ! 俺たちはいつも元気さ。美琴ちゃんの結婚式で晴れ姿を見なきゃいけないしね!」 「けっ、けっこ―――! …ふにゃー」 「お、おい美琴…、そ、それじゃまたー、あははー」 「あはは、美琴ちゃんをよろしくねぇー」 そして上条は美琴をずるずると引きずり刀夜達と別れホームに消えた。電車に乗る前にトイレに行っておいた方がよかったのだろうが、美琴は絶賛ふにゃー中だし諦めよう。 エスカレーターを上がると係員やホームのベルが電車到着が間近なのを知らせてくれる。やってきた電車にも疎らに人が乗っているだけで、これから乗る乗客と合わせても空席が目立ちそうだ。 上条は二人用の席に陣取ると、美琴を寄りかかれる壁側にする。…が、美琴は上条の肩の方がお気に入りなのか壁に寄りかかる事はない。こっちの方が温かいし気持ちいいしー。えへ。 やがて電車のドアが閉まりゆっくり走り出すとホームでは見えなかった外の景色が見えてくる。ふと外を見ると、ネット状の壁の向こうで美鈴が手を振ってくれていた。上条も軽く手を上げるとそれに気付いた旅掛や刀夜、詩菜も手を振ってくれているが電車は徐々にスピードを上げ、すぐに美鈴達が見えなくなってしまった。さようなら神奈川。さようなら父さん母さん旅掛さん美鈴さん。また夏休みに。 上条と美琴は電車に揺られ学園都市に帰ってきた。中に入る時にゲートでIDの確認やら何やらを精密に検査するが、レベル0の上条は美琴程念入りではない。なので一緒に入っても美琴は上条より後にぐったりと出てくるのだ。 美琴は外に出た時と同じく「これだけは面倒くさいわね、ホントに」と溜息を吐くしかなかった。 昼前に神奈川に出た上条たちが学園都市に入り、第七学区に着いた時には日はすっかり沈んでいて、美琴の門限までもう少しだった。 「じゃあ行くか。寮まで送るよ」 「大丈夫」 「え? そ、そうか? じゃあ…、また―――」 「当麻の部屋行くから」 「なー…んだって?」 「今日は当麻の部屋に泊まる」 「はい? だってお前門限があるだろ?」 「ふふん。実は学園都市外への外出は5日だけど、寮には新学期前日まで地元に帰るって言ってあるの」 「おまっ―――! …そんな事していいのかよってか出来るのかよ」 「寮監には何も言われなかったけどー?」 「だ、だから実家の時すんなり帰ったのか…。おかしいと思ったぜ」 「えへ」 美琴はしてやったりな顔をすると上条の腕を取り、馴染みのスーパーへ向かった。実家に帰る前に魚とか買い溜めしておいたけど、今は三が日なのでセールもやっていて安いだろうと考えたのだ。この夫婦生活で、お嬢様の美琴もお金の感覚を相当になおしたらしい。ちょっとづつだが、いい奥さんに向かっているようだ。 上条も夫婦生活で慣れたのか以前程は美琴を泊めてはいけないと思わなかったらしく、しかも常盤台の門限も無いのなら美琴は何を言おうと無駄なのも知っていたのでお泊りを認めたのだ。自分が実家に帰ってる間に小萌先生にお世話になっているインデックスには冬休みの間はそこにいてもらおう。 「さっ。今日は何食べたい? セール中だし…、ちょっとだけ奮発しちゃう?」 「そうなー…、じゃあ…シーフードカレー!」 「…アンタカレー好きねぇ」 「美琴が言った甘いけど辛いカレーが食べたい」 「あは、いいわよ作ってあげる。この五日間で相当煮込んであるからとびっきりの甘辛になってるわ」 「期待してるぜ、美琴たーん」 「たん言うな」 スーパーはやはりと言っていい三が日セールがやっていて、お節の食材やら蟹やらが大売出ししていた。嬉しい事にその食材の裏でもちゃんとしたセールがやっており、普段のこの時間なら学生はいないのだが今日はまだまだ買い物客で溢れていた。 上条と美琴はカートを引いて青果や鮮魚コーナーを回る。シーフードカレーにするなら野菜やら海老などが必要になってくるので割引のやつを狙わなくては。 神奈川と学園都市では単価が違うのか、美琴はうーんと悩んで商品を選ぶ。もちろんセールをしてるので安いと言えば安いのだが、神奈川に比べたら魚介は高いようだ。主婦美琴は買い物上手になっていた。しかしこのままでは魚介が入らないシーフードカレーになりかねないので、上条は冷凍食品に目をつける。本格的なものでなくとも安いならそっちの方がいいし、海老などもないよりあった方がいい。 夫婦生活が終わってもバッチリ夫婦な上条当麻と御坂美琴。 「だっはっ! 重かったーっ!」 「お疲れ様。今日は私一人で作るから当麻は休んでて」 「ありがとー、美琴たーん」 「たん言うなっつの」 上条と美琴は学生寮に帰ってくるといつものやりとりをする。上条は両手いっぱいの戦利品入りの袋をキッチンに、そしてこれからは美琴の腕の見せ所。愛しい旦那に美味しい料理を振舞わなくては。 今日のメニューはクリスマスの時に話していた美琴特製の辛いんだけど甘いカレー。美琴はクリスマスの時に指輪の一件でなかなか料理に取り掛かれなかったが、もうその件についてはクリアしてるので大丈夫だ。指輪を外してネックレスに…、でも涙目。 そのカレーは作り方は一緒だが今日は究極のスパイスがある。そのスパイスは5日間の夫婦生活で深めた絆で、一度料理に入れようものなら全く別の味になるだろう。それに今回はご飯のセットも忘れない。 料理を作ってる美琴はどこか楽しそうで、鼻歌を歌いながらアク抜きをしてたり、おたまでかき回したりしている。上条も美琴の歌をお供にテーブルの上を掃除していた。テレビのリモコンは床に、漫画は本棚に、教科書は鞄に、課題はゴミ箱……あ。 そして暫くすると美琴がお盆に乗せ二人分のカレーライスを持ってきた。 「うんまそーですね」 「ま、まだ食べてみないと」 「じゃあ…、いっただっきまー…んむっ」 「…」 「もぐもぐ…」 「あぅ…」 「…ごくん」 「あぅあぅ…」 「…美琴たん」 「ふぇ?」 「結婚してください」 「…ふにゃー」 上条当麻は美琴特製シーフード甘辛カレーの前に屈した。その後はふにゃふにゃしてる美琴をなだめながら涙を流し「うまいうまいぞぉーっ!」と、どんどんかっこんでいく。そのカレーは上条のみ味わう事が出来る究極の味。とても温かく、甘く、それでいて辛いカレーだった。美琴たん、上条さん家に米だけはあるっていってもこんなすぐにもぐもぐ…。 御坂美琴は料理の面でもどんどんとパワーアップし、着々と上条美琴への階段を上がっているようだ。 「いやっ! 絶対帰らない!」 「絶対帰れ!」 「帰らない!」 「ダメったらダメです!」 「ふぇぇぇぇ……」 美琴はだだをこねていた。今日は学園都市に帰って4日目で明日から新学期という日。この四日間もばっちり上条の部屋にお世話になっていた美琴は、今日は常盤台に申告した帰宅日なので帰らなくてはいけない。神奈川の実家から帰る時に美鈴の「よく帰りたくないってだだこねなかったわね」発言に「そんな子供じゃないわよ!」と堂々と言い放ったのだが、もう今や完璧に子供に退化しているようだ。 実家から出る時にはまだ美琴の中には上条との同棲ライフが待っていたのでまだ持ちこたえられたのだが、今日からは常盤台の門限上お泊り無しの生活が始まる。 なので美琴はだだをこねていたのだ。上条なら何とか言えば泊めてもらえると思ったのだが、美琴の予想に反して上条はダメの一点張りだ。上条サイドからしたら門限がないから泊めてあげてただけなので、今日は帰らせないと美琴にも悪いのだ。 「美琴たん。分かってくださいよ、もういっぱい遊んだじゃないですか」 「まだぁ…、もっどいっばいあぞぶー…」 「じゃあ明日の放課後にでも―――」 「ぶぇぇぇ…」 「あああぁぁ…わーったよ、しょうがねぇなぁ……」 「ぇぇぇ…?」 「寮まで送ってやるから」 「ふにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?????」 美琴は上条の正面から無視すんなやコラー!タックルを決め、床に押し倒した。不意をつかれた上条は久しぶりのタックルにぶふっと言う。その後美琴は真っ赤な顔を見せるが、あの時とは大分表情が違う。あの時は恥ずかしさ100%って感じだったが、今回は…えっと、うん。とにかく恥ずかしくて顔を真っ赤にしてるわけではなさそうだ。 上条も何とか泊めてあげたいと思う。この部屋に帰ったらやろうとしていた冬休みの課題も美琴先生の教えで2日とかからなかったし、思わずプロポーズしてしまう程のおいしい料理も食べさせてもらった。…が、しかし! くっ…! なので上条は秘密兵器を出す事にしたのだ。 「美琴」 「…ふぇ?」 上条がポケットに手を入れてゴソゴソとしだすと、一度見せた真っ赤な顔を上条の胸に押し当てていた美琴もゆっくりと顔を上げる。もう上条のシャツは美琴の涙でぐっしょりだった。 「これなーんだ?」 「…!」 上条がポケットから出したもの。それは――― 「それ…、鍵…よね」 「そう。この部屋の合鍵です」 「!!!」 「さぁどうする美琴たん! 今日帰るのならこの合鍵をあげようじゃないか!」 「うっ…! 今日泊まって、その鍵も貰うっていうのは…?」 「そんなのダメに決まってんでしょ!」 「うぅ…、でも…」 「あー、もう選ぶ時間がー」 「ふぇ!? あああああああああのっ…!」 「はい。美琴たん」 「…………………………………………………………………………………鍵、ちょうだい」 「…じゃあ今日は帰るんだな?」 「……うん」 「鍵貰ったからって明日から泊まるってのも無しですよ?」 「…」 「あ、あれ? 無しですよ?」 「…うん」 「じゃあ…、ほら」 「えへ」 こうして美琴嬢は帰っていったのだ。部屋は違えど、この指輪ある限りお互い好いている限り上条美琴に変わりはない。 か、彼氏が合鍵をくれるって事はアレでしょ? いつでもおいでって事でしょ? えへ、えへへ。 ――――が、そんな上条美琴さんにも立ちふさがる壁があった。それは常盤台女子寮208号室にて起こる。 その壁とは美琴の久しぶりの帰宅に歓喜する白井ではなく(お預けを喰らって開放された犬のように盛んになってはいるが)寝る時の、そうパジャマに問題があったのだ。 上条の寮に寝泊りする際にはやはりと言っていいワイシャツを借り上条の隣で彼を抱き枕にして寝ていたのだが、今日は上条もいなければワイシャツも無い。こんな状態ではとても寝れたもんじゃない。 「(ほ、ホントに寝れない…。どうしよう…)」 美琴は冗談ではなく、本当に寝れないらしい。お風呂に入った後だし、上条の匂いがなくなってしまったのだ。美琴は家事においてはパワーアップしたが、対上条属性に関してはこの上なくダウンしていた。 冬の寒さも相まって一緒にいるだけで感じる上条の温かさも、全身を包んでくれているようなワイシャツも無い。美琴は関心した。実家に帰る前の自分を。アンタすごいわね。どんな能力者? 「(うぅ…、当麻に会いたい…)」 美琴は何度も何度も寝返りをうっては当麻当麻とモジモジする。体も分かっているのだ。今の自分には上条当麻が足りないと。でも今日は寮からは出れないし我慢するしかない。美琴はこんな状態になるなら上条のワイシャツだけでも封印した方が良かったと多少なりとも自分に後悔している。そういえば実家に帰った2日目でも美鈴に注意されたような…、あぅ…。 だって気持ちいいんだもん。全身で当麻を感じれるんだもん。あうあう…。 ところで隣のベッドの白井はどうしたのだろうか。寝る前に土産話(つまりは上条との生活の話)をして以来真っ白になって動かない。まぁ…、変に襲われるよりはマシだけどさ。 すると寝れずにいた美琴のゲコ太携帯が何かを受信したのか着信音を奏でた。美琴はビックリしたが、白井を起こしてしまうと何かと面倒なのでイントロクイズ並の速さで着信音を消す。その美琴の顔は頬を染め、笑み一色だった。何故か。それは聞き慣れた上条当麻だけのメール着信音だったからだ。 美琴はドキドキとそのメールを開くと――― Time 2011/01/07 01 22 From 当麻 Sub ――――――――――――――― おやすみ美琴 「えへ」 上条のメールはたった6文字だったが、今の美琴には十分な内容だった。今寝れば上条と一緒の夢を見れるかもしれないし、自分が寝れないのを分かっててメールしてくれたのかもしれない。 それは美琴には分からないが、そう考えるだけで離れていても上条はずっと傍にいると感じさせてくれる。 美琴は小さく笑うと上条に返信し、画面を待ち受けに戻した。そこには内緒で撮った上条の寝顔があり、美琴に安心を与えてくれている。さらに安心で思い出したのか美琴は携帯を閉じるとクリスマスの時にプレゼントされた指輪に手をかけた。これこそが美琴にこの上ない安心を与えてくれる。 指輪を見てさらに頬を染めると、美琴はゆっくりと瞳を閉じた。さっきまでの寒さはない。さっきまでの寂しさもない。今は常盤台のベッドの上にいるが、美琴は上条を感じる事が出来る。 「えへへ」 美琴はもう一度小さく笑うと心地よい睡魔に襲われ夢の中へと入っていった。その安心を感じるようにしっかりと左手を抱きしめて。 おやすみ、当麻ぁ…。 こうして上条当麻と御坂美琴のいちゃいちゃ年末年始は終わりを迎えた。机の上には先程上条から貰った鍵と一緒に美琴のお気に入りゲコ太キーホルダーがキラキラ輝いていた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11月22日は何の日?
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind 第6話 不幸と幸福と漏電 「ど、どうしよう…」 フランクフルト屋の側のベンチで、上条は困っていた。 別に魔術師や科学者からの襲撃を受けたわけではない。 美琴と抱き合っていたせいで、周囲に大勢のギャラリーが集まって来てしまったことでもない。 彼が困っているのは、目の前で突然倒れた御坂美琴が原因だった。 (な、なんで倒れたんだ?俺は何もしてないし…まさか魔術師の攻撃か!?……でも御坂を狙う理由なんてないよな……) なぜ美琴は突然倒れたのか。 魔術か、それとも科学の能力か、はたまた何かの病気なのか。 気絶した美琴を抱え、必死に考えるも答えはでなかった。 ……本当のところ、上条に抱きしめられられ付き合えたと勘違いし、嬉しさのあまり気絶したのだが、上条にわかるわけがなかった。 焦る上条が次にとった行動は (えーと、こういう場合は……そうだ救急車!!) たとえ魔術の特殊攻撃であろうと、たとえ敵の攻撃ではなかったとしても、美琴に何かが起こっていることだけは確かなのだ。 ということは病院に運んだ方が、診察もしてもらえるし安心できる。 それに、こんなところで大好きな彼女を失うわけにはいかない。 上条は手に持っていた携帯を開き、電話をかけようとしたのだが (………救急車って…何番だ?ていうか漏電してるっぽいから車に乗せられないんじゃないか?い、一体どうすれば…) 今は右手で触れているため、美琴は普通に眠っているように見えるが、先ほど一瞬手を離したらかなり強い電気が漏れていた。 これではとてもじゃないが、車に乗せることなんてできるわけがない。 そんなわけで上条がオロオロしていると、 「むにゃ……えへへ…」 頬をリンゴ色に染めた美琴が、呟いた。 いや、正確には『寝言』と言った方が正しい。 表情は緩みきっており、なんだかものすごく幸せそうな美琴は、ギュッと上条にしがみついてきた。 とりあえず言えることは“可愛い”。 そんな美琴を見た上条は、ある考えに辿り着いた。 「………ん?ひょっとして…寝てるだけ…?」 しがみついてきている美琴に、苦しんでいる様子は全く見られない。 それどころか、スースーと寝息をたてている。 (なんだ寝てるだけかよ……てことはそんな深刻な状態じゃないってことか。……よ、よかった…) これで一安心。 美琴に異常なことが起こっていないとわかり、上条は安堵の表情を見せた。 しかし、安心したのも束の間。 「ちょっと御坂さんじゃない!?」 「え?」 人だかりの後ろから女の人の声がした。 聞いたことがある…ような気がしたり、しなかったりする。 (この声……誰だ?それに御坂を知ってるんだよな。俺と話したことがない人じゃないとまずいんだけど…) もし話したことがある人であれば、こんな状況でにもかかわらず好きだと言われることは間違いなく、面倒なことになるだろう。 そして人だかりの向こうから現れたのは、腕に風紀委員の腕章をつけた女性。 残念なことに、上条はその人と話したことがあった。 「あ…こ、固法さん…」 「上条さん!御坂さん気を失ってるみたいだけどどうしたの?まさか事件に巻き込まれたの?」 現れた女性とは風紀委員第177支部に所属する女子高校生、固法美偉だ。 上条は以前美琴つながりで固法と会い、話したことが何度かある。 それはつまり、増強剤の影響を受ける条件を満たしているということ。 (ヤバい、またしてもヤバいぞ…今にも好きだとか言われるんじゃ……) 固法は普段なら、かなり頼りになるが今は話が違う。 この場で告白なんてされれば、美琴を抱えて逃げることなどできないので、ジ・エンド。 上条は美琴を抱えたまま、固法からジリジリと後ずさる。 そんな上条に固法が 「?どうしたの上条さん……まさか御坂さんを気絶させたのって、上条さんなの…?」 「……あれ?」 固法は上条に惚れる様子を見せるどころか、上条に敵意さえ見せ始めた。 それを見た上条は少し考える。 (…どうみても俺に惚れてないよな。てことは……まさか固法さんって好きな人いるのか?だとしたらこれはチャンス!!) 固法に好きな人がいる、というのは少し予想外であったが、何にせよ助かった。 なんたってやっかいな増強剤の影響を受けないのだから。 こうして固法が正常だと確信した上条は、 「いや違いますよ? 俺が何かしたんじゃなくて急に倒れたんですよ。それになぜか漏電してるから右手を離せなくて…だから救急車も呼んでも乗せられないから困ってたんです。」 そう固法に説明した。 実際は抱きしめていたのだが、それを言うと話がややこしくなるので省くことにしたのだが、特に問題はないだろう。 上条の説明を聞いた固法は、 「あ…そうだったの。変な態度するから、てっきり上条さんが何かしたのかと思ったちゃったわ…」 「いや気にしないでください。それより御坂を運んだ方がいいと思うんですけど…どこに運べば………」 「あ、そ、そうね。えーと……177支部に行きましょうか。」 「はい、じゃあ運び……………!!」 上条は気づいた。 177支部へ行く、ということは車無しで気絶した美琴を運ぶということ。 それはつまり…… (……御坂をおんぶするってことなんじゃ!?) なんという素敵イベント。 固法に運ばせるわけにはいかないし、どう考えても他の方法もないので、必然的に上条が美琴をおぶることになるのだ。 上条は固法に見えないよう、ガッツポーズをした。 「えーと…御坂さんをどうやって…あ、タクシーでも…」 「あ!いや!!お、俺が!俺がおんぶします!しますから大丈夫です!!マジで!!」 上条は必死だった。 「そ、そう。じゃあお願いしようかしら?」 「よし!!さて……よっと。」 「大丈夫?じゃあ行きましょうか。」 上条は気絶している美琴をおんぶし、固法と並んで風紀委員の支部へ向け歩き始めた。 振動で起きないかが心配だったが、美琴は上条の背中で気持ちよよさそうに眠っており、今のところ起きる気配はない。 (ああ…御坂をおんぶできるなんて……幸せだ…) 背中の美琴の感触や体温、匂いなど、美琴好きの上条にとってはたまらなく、ついつい顔が緩んでしまう。 今日はなんといい日なのだろうか。 美琴を抱きしめることはできしたし、おんぶもできたし、女の子に追いかけられた出来事が霞むくらいいいことが起こった。 おんぶもいいけどもう一回抱きしめたいなー、とか上条が考えていると 「上条さん?」 「は、はい!なんでせう?」 「改めて言わせてもらうけど…さっきはごめんさないね…疑っちゃって…」 隣を歩く固法は視線を下に落とし、申し訳なさそうな表情を浮かべている。 そうやらさっきのことをかなり気にしているようだ。 「そんなの気にしなくていいですよ。全く気にしてませんから。」 「でも…」 「いいですって。それより今日も風紀委員の仕事ですか?」 「え、ええ、そうなのよ。今第7学区に妙な男子学生が出没していて、多くの風紀委員が駆り出されてるのよ。」 「…男子学生…?まさかとは思いますが、その学生って髪の毛が青くて耳にピアスしてるとか…?」 非常に嫌な予感がした上条はおそるおそる尋ねてみた。 上条の言う、“髪の毛が青くて耳にピアスしてる学生”とは、もちろん青髪ピアスのことだ。 できれば違ってほしいと思っていたが、固法は驚いた表情を見せ 「なんで知ってるの?まだ言ってないのに…」 「え…ま、まさか本当に?」 「ええ。私たち風紀委員は青い髪の高校生を捜しているのよ。ひょっとして、上条さん何か知ってるの?」 「い、いや別に…」 間違いない、風紀委員が探しているというのは、増強剤で暴走した青髪ピアスだ。 上条の顔はサーッ青くなり、心拍数が跳ね上がった。 ぶっちゃけ上条も、いくら青髪ピアスが増強剤の効果により変態が強化されたといっても、そこまで問題はないと思っていた。 だから特に青ピを探さずに美琴をメインに探していたのだ。 「そ、それで…被害は…?」 上条は再びおそるおそる固法に被害状況を尋ねた。 もし青髪ピアスが女の子たちに危害を加えていた場合、停学はもちろん、最悪退学になりかねない。 頼むから何もしていないでくれと、願っていると 「被害?女の子達は被害になんて遭ってないわよ?」 「へ?」 固法の口から出たのは予想外の答えだった。 「被害に遭っていない…?」 「ええ、むしろ逆よ。青い髪の学生は第7学区内の女の子たちを助けて回ってるの。だから是非ともお礼を言いたくて探してるわけなの。」 「えー…そ、そうなんですか……」 上条は青髪ピアスの予想外過ぎる行動に驚きを隠せない。 (青ピが人助け……変態が増強されたんじゃないのか?…いや、あれは土御門の予想だから別の何かが増強されたのか。) だとすれば何が増強されたのか、上条が考えていると 「んん…」 「!?」 背中の美琴が小さく声を出した。 さらにちょっと動いた気がする。 (ま、まさかもう起きたのか!?頼むって、おい…もう少し眠ったままでいてくれよ…) 美琴が起きれば、当然自分の足で歩くことになり、おんぶできなくなる。 しかし… 「えへー……むにゃ…とーまぁ…」 「な…ッ!」 どうやらまだ眠っているらしい。 耳元で聞こえる美琴の可愛らしい寝言、美琴大好きの上条にとってはたまらない。 (何この可愛い御坂、結婚したい。ていうか夢に俺が出てきてるのか……どんな夢なんだろ…) 青ピのことなど頭の中から消え去り、できれば2人でいちゃいちゃしてる夢がいいなー、と考える上条だった。 そんなかんじで歩くこと約10分、風紀委員第177支部に到着。 ちゃんと室内に女の子がいないと確認をとってから中へと入り、美琴をそっとソファへと寝かせた。 背中から降ろすとき名残惜しいと思ったのは内緒だ。 「もう漏電してないみたいね。それに病院へ運ぶほどひどい症状じゃないみたいだから、しばらくここに寝かせておこうかしら。」 「そうですね。御坂もそのほうがいいと思います。」 「じゃあ私飲み物入れてくるから、ちょっと待っててね。」 「あ、どうもすみません。……さて、御坂の寝顔を堪能しますか…ん?電話か?」 唐突に鳴った着信音、上条はポケットから携帯を取り出してみると 「土御門か……まさか元に戻す方法がわかったのか!?」 だとすればありがたい。 もう女の子に追いかけ回されるのは勘弁してもらいたいし、体力と気力がもつかどうかが怪しい。 上条はすぐに通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。 「土御門?何かわk」 『おーう上やん!元気にモテてるか!』 「なんか腹立つ。で、何のようだ?嫌み言うために電話かけてきたわけじゃないだろうな。」 『ああ、もちろん違うぜい。治し方がわかったんだにゃー。』 「ッ!!マジか!」 上条は歓喜した。 これで全てが元に戻る。 女の子達はみんな今日あったことを忘れ、改めて美琴に告白することができる。 それで振られても、上条は悔いないだろう。 まあ絶対振られないけど。 「で、どうやったら治るんだ?」 『ああ。解毒剤ってのを作ったんだにゃー。だから上やん、俺の寮に取りにこい。』 「解毒薬……“毒”っていうことにちょっと引っかかるな…」 それにそんなもんで治るもんなのか、少し疑いはあるものの、今は土御門を信じるしかない。 早速取りに行こうと思ったのだが、立ち上がろうとしたところで1つ考えが浮かんだ。 「……あのさ、こっちに持って来るのって、無理?」 『え?いやーそれは…』 「頼むって!俺がそっちに移動すると絶対ヤバいことがおきるからさ!」 と、言うのは立て前で、本音はこの場で美琴と一緒にいたいからである。 しかし、土御門の声がなかなか返ってこない。 電話の向こうでどうするべきか考えているのだろうか。 そして沈黙が続くこと約20秒。 『よし!わかったぜよ。今回は俺にも非があるからな、持って行ってやるんだにゃー。』 「おお!助かる!じゃ、そっちの携帯に俺の居場所を送っておくから、頼んだぞ!!」 『了解だにゃー。』 そして土御門との通話は終了、想像以上に自分の思い通りの展開となった。 「いやー、土御門のやつ聞き分けよかったな。……何か企んでるんじゃ………ってそれはないよな。よし、アイツが来るまで御坂の寝顔を…」 上条は携帯をポケットにしまい、ソファで眠る美琴に視線を移す。 やはり可愛い、その一言に尽きる。 (………あ!写真とって待ち受けにしよう!!) 名案だと上条は思った。 ここで写真を撮っておけば、携帯でいつでも美琴を鑑賞できる。 固法がまだ戻ってこないことを確認してから、上条は携帯をかまえた。 が、ここで上条に不幸が襲いかかる。 「固法先ぱーい!例の青髪の学生発見しました!ていうか佐天さんが…」 「こんにちはー!!あの、あたし学校の友達と遊んでたら不良にからまれて、そこを偶然青髪の人に助けてもらっちゃった……って、上条さん!?」 「…マジかよ……」 上条に安息が訪れる時はないのだろうか。 勢いよくドアが開くと共に、美琴の友人である初春飾利と佐天涙子が入って来た。 いや、“入って来てしまった”と、言った方が正しいかもしれない。 2人と目が合った上条はその場で停止。 上条はこの2人とも知り合いになり、話したことがあるため、増強剤の影響を受ける可能性がある。 が、しかし、それはあくまで“可能性”だ。 (まだだ。まだこの2人に好きな子がいるって可能性が残されてる。頼むからいつも通りであってくれよ…) 上条は2人に好きな人がいるという可能性に賭け、イスに座ったまま2人の反応を待った。 小学生なら話は別だが、2人は中学生なのだから好きな男の子がいてもおかしくない。 その結果は… 「上条さん…あのー、今暇ですか?もしよければパフェ食べに行きませんか?私美味しいお店知ってるんですよ!」 「あ、ちょっと初春!抜け駆けはずるいって!上条さん私と買い物行きましょうよ!」 「ははっ……そうだよな…人生そう上手くいくわけないよな…」 上条へ詰め寄る2人の女子中学生。 完全に『増強剤』の影響を受け、上条に惚れ込んでいる。 「あの、上条s」 「逃げるが勝ち!!」 上条は半分泣きながら逃げるように、というか逃げるために第177支部から飛び出した。 「もっと御坂と一緒にいたかったのに…不幸だぁー!!!!!」 ♢ ♢ ♢ 「いやーお腹いっぱい!後はとうまを探すだけかも!」 お腹をさすりながら、そんなことをいうのは、大食いシスターインデックス。 食料確保と上条を探すため、上条の部屋を出て町に来ていた彼女は よく飲食店でやっている『餃子100個食べたら1万円!ただし食べられなかったら5000円お支払い』というやつである。 おかげで元からあった千円を使うどころか、今インデックスの手元には5万円という大金があった。 「お金ってこうやって手に入れるものだったんだ……ん?あれは…とうま?」 インデックスが見たもの。 それはものすごい勢いで走る上条と、追いかける2人の女の子だった。 「……ちょっと待つんだよ!とうまー!!」 ♢ ♢ ♢ 「はぁー…全然見つからない…」 と、ため息まじりに独り言を言うのは、天草式十字凄教の五和だ。 名も知らない青い髪の少年(青髪ピアス)に助けられてから約1時間、上条のこと探し続けるも、見つけることはできていなかった。 「もー…これじゃ抜け出して来た意味が…ん?」 「かっみじょーさーん!私とデートしましょーよー!」 「待つんだよー!とうまー!」 上条を追いかけているのは3人の少女。 そのうちの1人は知っている。 イギリス清教のインデックス、上条との同居人である。 しかし、他の2人は見たことが無い。 ということは… 「あ、新しいライバルが……ちょっと待ってくださーい!!」 ♢ ♢ ♢ 一方、こちらは上条のクラスメイトである姫神愛沙。 「おかしい。絶対おかしい。」 第7学区の路上に設置されているベンチに座り、姫神は意味ありげに呟く。 彼女は教室内で担任の小萌と、クラスメイトの吹寄が相次いで上条に告白するという異常事態を目の当たりにしていた。 それだけにとどまらず、小萌も吹寄も上条を追って学校を飛び出して行ってしまったのだから、何かが起こっていることは間違いない。 そう考えた姫神は、恐らくこの事件に絡んでいるであろう上条に会うため、放課後町を散策していたのだが、五和やインデックスと同様に上条に出会うことができず、今は休憩の最中だった。 「絶対に何か起こっている。だから上条君に会いたいのだけど……なぜだろう。会える気がしない。」 何かと上条と縁の薄い姫神、諦めモードになりかけていた時だった。 「上条さーん!待ってくださーい!」 「とうまー!話があるんだよー!」 姫神のすぐ後ろから聞こえてきたのは、聞き覚えのある声、そして名前。 「え?上条。当麻?」 姫神が振り返ると、そこには逃げる上条と追いかける4人の女の子の姿があった。 そんな光景を目にしたら、することは一つ。 「……追いかけよう。」 ♢ ♢ ♢ 場面は戻って、ここは風紀委員第177支部。 上条が逃げ出してから30分近くが経っており、今室内には3つの人影があった。 一人は風紀委員177支部支部所属の固法。まあここにいて当たり前である。 もう一人は上条の呼び出されわざわざやってきた土御門。 そしてもう一人は、晴れて上条の彼女になることができたと思い込んでいる美琴なのだが、他の2人に対して深々を頭を下げている。 なぜ美琴が頭を下げているのかというと 「本当にすみませんでした!!」 2人に謝罪をするためだった。 美琴は本当に申し訳なさそうに、固法と土御門にただひたすら謝り続ける。 もちろんのことだが、美琴が固法と土御門に謝るのには、ちゃんとした理由がある。 その理由とは 「いやそんな謝らなくても別にいいぜよ。…まあ目を覚ましていきなり漏電したのはびっくりしたけど……」 「す、すみません!ほんとにすみません!!」 美琴の口から出てくるのは、謝罪の言葉のみ。 自分が漏電してしまったため、固法と舞夏のお義兄さんを危険な目に遭わせてしまった。 そのことが申し訳なくて仕方が無かったのだ。 謝ることを止めない美琴に、漏電が怖いためか少し距離をおいている固法が 「土御門さんも言ってるけどそんな謝らなくていいわよ。それより、なんで起きていきなり漏電なんてしたの?」 「そ、それは…まあいろいろあったんです……」 言えない。 本当のことなど、絶対に他人に言うわけにいかない。 (アイツと付き合えたことが嬉し過ぎたからなんて…言えないわよ!) 美琴の勘違いは続く。 本当のところ、上条は美琴が増強剤の影響を受け、告白してきたと思っているのだが、美琴は上条が告白を受け止めてくれた、と思い込んでいるのだ。 まあ実際のところ両想いなので、問題はないと言えば問題ない。多分。 それにしても、今改めて思い出してみても、あの時の幸福感はヤバい。 名前で呼ばれ、抱きしめられ、“好きだ”と言われる。 それを上条にしてもらえたのだから、美琴には『今世界で1番幸せな女の子』だという自身があった。 で、いつの間にか反省モードから妄想モードに切り替わっていた美琴は (えへへへ……私がアイツの彼女……って、や、やば…顔に出てるかな。ていうかまだ抱きしめられてる感触が残って……あれ?そういえば…アイツは…?) 今になってようやく気づいた。 上条は一体どこに行ったのだろうか? 改めて室内をきょろきょろと見回すが、彼の姿は無い。 (……あれ?目が覚めてからずっと漏電してたからわかんなかったけど……そういえばここにいないんじゃない?) もう一度見回してみる。が、やはりいない。 じゃあどこに行ったんだ、と思っていると 「どうしたの御坂さん。急にきょろきょろしだして。」 「あ、あの…アイツ知りませんか?私気を失う前にアイツと会ってたんですけど…」 「“アイツ”って上条さんのこと?上条さんなら御坂さんをここまで運んでくれたんだけど、その後すぐに出て行ったわよ?」 と、固法の答えを聞いた美琴が一番に考えたことは (あ、アイツが運んでくれたんだ……なんか嬉しいな…) ささいなことでも、幸せな気分になる美琴だった。 しかし、今大切なことは上条に運んでもらったことではない。 「あの、出て行ったって…なんでですか?」 「えーと…そうだ。初春さんと佐天さんが入ってきたんだけど、なぜか上条さんは2人に追いかけられて出て行ったのよ。」 「「あ…」」 美琴と土御門は同時に声を出した。 2人は固法の話を聞いて瞬時に理解していた。 上条は薬の影響を受けた初春と佐天に言いよられ、ここから逃げ出したのだと。 (てことは、今にも初春さんと佐天さんがアイツに……は、早く探さなきゃ!!) 予想外の事態に、美琴は慌てて支部から飛び出そうとしたのだが、 「ちょっと待つぜよ!」 「わっ!」 急に土御門に腕を掴まれた。 急いでいるのに一体なんだ、と美琴は不機嫌そうに振り返り 「なんですか?あの、私急用を思い出したんですけど…」 急用=上条を探しに行くこと。 とにかく、美琴は一刻も早く上条を探しに行きたかった。 しかしそんなことはバレバレなわけで… 「いや急用って、どうせ上やんを探しに行くだけだろ?」 「な…!!そ、そんなわけないじゃないですか!私は別にアイツのことなんて…ただちょっと用事があるだけで……」 ここできても美琴は素直ではなかった。 土御門と目を合わせないようにして、バレバレのいいわけをする。 そんな美琴を見た土御門はうんざりとした様子でため息をつき、 「…まあその話は置いておいて…上やんにこれを届けてほしいんだにゃー。ほい。」 「これ……なんですか?」 美琴が土御門より手渡された物。 それは液体の入った小さなビンだった。 その高さ5センチ、直径2センチほどの小ビンには手書きの読みづらい文字が書かれたラベルが張られている。 その文字を美琴は読んでみると 「『ANTIDOTE-解毒剤-』…?何の?」 「だから上やんが飲んだ増強剤の解毒剤ぜよ。それを上やんに飲ませれば、すぐに元通りになるんだにゃー。」 「え!?ほんとですか!?」 「もちろんだにゃー。俺はウソは言わないぜい。」 「これが……アイツが元に戻る薬…」 土御門の台詞に美琴は目を輝かせた。 彼の言葉が本当なら、これを上条に飲ますだけで全てが解決し、正式に上条との交際がスタートする。 なんて素敵なアイテムを持って来てくれたんだ、と美琴は土御門に心底感謝した。 「て、ことで、俺はもう上やんを探すのは嫌だし、代わりに頼むぜよ。」 「あ、はい!任せてください!!」 「よし。じゃあよろしく。あ、それからこれ。解毒剤の説明書だにゃー。今急いでるなら、上やんに飲ませる直前にでも読んでくれ。」 「わかりました!」 美琴は元気よく返事をした。 そして絶対になくさないよう、解毒薬と取扱説明書をカバンの中にしまい、ドアノブに手をかける。 「じゃあ失礼します!固法先輩もありがとうございました!!」 「お礼なんていいわよ。それより頑張ってね?」 「はい!!」 美琴は元気よく、支部から飛び出していった。もう2人に上条を探しに行くことを隠してすらいない。 もうすぐ全てが解決する、そう思うと足取りは軽かった。 ♢ ♢ ♢ そして美琴の後に177支部を後にした土御門は、 「舞夏ー!おまたせだにゃー。」 「おー、やっと出て来たかー!で、どうだったんだー?」 「いやー……これはもっと面白そうなことになるぜよ。あ、超電磁砲にはバレてないか?」 「それなら大丈夫だぞー。見えないところに隠れてたからなー。」 「よし、なら大丈夫だな。さて……上やんと超電磁砲を追うぜよ。」 やっぱり土御門は土御門。 支部の外で待機していた義理の妹である舞夏と共に、今日も元気に悪巧みをするのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is 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小ネタ げんてんかいき 美琴「いちゃいちゃするわよ!!」上条「いきなりどうしたんだよ」美琴「最近私達、いちゃいちゃしてないじゃない。というか殺伐としてるわよ」上条「うーん、そうか?」美琴「そうよ!!私と当麻が命を懸けてバトったり悪の研究員を消し炭にしたり首から下が潰されたり!!」上条「いやそんな事一度もないからな?!てか何かエグいよ!?」美琴「それもこれもはりねずみの奴が鬱展開しか考えて無いのが悪い!どういうことよ夢に私が出てきて当麻が居ないって、昔見た上琴の夢の続きはどこ行ったー!!」上条「ストップ美琴さん!これ以上メタ発言しないで!!」美琴「たとえ夢でももっと遊園地でデートしたいし二人でラジオ出演したい!というかもっといちゃつきたい!!」上条「わかった。わかったから落ち着いて!!」美琴「……じゃあ、いちゃいちゃしてくれる?」上条「ああ、美琴の気が済むまでしてやるよ」美琴「具体的にどうすればいいかわかってる?」上条「えーっと、こうか?」ギュッ美琴「……よろしい」美琴「じゃあ今度は撫でてほしいなー、なんて」上条「まったく、我儘な姫だことで」ナデナデ美琴「エヘヘー」ニパー美琴「ねぇ当麻」上条「ん?」美琴「ん」chu*上条「ーーーーえ、あ、あわわわわ」////美琴「大好き」上条「お、俺もだ、大す、好きだ、ぞ----ふにゃー」プシュー美琴「と、当麻が壊れたー!!」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ― バレンタイン ― 2月12日、常盤台女子寮、夜 日本の女の子達にとってはほぼ間違いなく注目される日、バレンタインデーを2日後に控えここに住む女の子は皆浮き足立っていた。 チョコを意中の男に渡そうと目論む者、ただ友達に渡そうと考える者、何やら怪しい薬を取り寄せてチョコに紛らわせ薬を飲ませようと企む者、と各々心の内に秘めるこそ様々だがチョコを大切な人に渡すというと根本的な所は共通してしている。 そんな中、230万人の人口を誇る学園都市にも7人しかいない超能力者、超電磁砲の異名をとる御坂美琴もそのような事を考えていた。 結論を言うと、彼女には想い人がいる。 嘗て彼女を絶望の淵から救い出してくれた人。 嘗て彼女にかけがえのない約束をしてくれた人。 その人、上条当麻である。 彼らの出逢いは6月、複数の不良に絡まれた時だった。 彼女は内心、バカな奴だと思っていた。 自分にそんな上っ面だけの偽善なんていらない、そんなものならない方がいい。 事実、彼が首を突っ込まなくても解決していただろう。 最終的に不良を追っ払ったのは彼女なのだから。 だが、その少年はあらゆる点で他の人と異なっていた。 まず第一に超能力者たる御坂美琴の電撃を浴びて無傷でその場をしのぎきった事。 彼が見せた正義は上っ面なだけのそれではなく、例えなにがおきても揺るぎない信念に基づいての行動であった事。 何よりも、自分が超能力者であることを知っても怖じ気づかず、妙に腰を低くしたりもせず、普通に他の人と同じように接してくれる事。 さらにその他様々な要因が重なり合い、極めつけは妹達の事件と偽デートでの約束。 今まで恋愛とはほぼ対局の場所に位置していた彼女でも、心底彼に惹かれるのは最早必然。 なので今まで大覇星祭、一端覧祭そしてクリスマスと数回にわたるアタックを重ねていたが、上条が鈍感であることと彼女が素直になりきれず、まだ想いは実っていなかった。 (バレンタイン…この日は、この日こそは自分に素直になって…アイツにこ、告白するのよ!) そう意気込んでいる美琴はまず手始めに上条の予定を聞くことにしたのだが、 (うぅ…やっぱり電話は緊張する…) やはり自分のほうから電話する事はまだまだ慣れていないこともあってか、実行にまだ移せないでいた。 今までは公園や帰り道などで会い、半ば強引に約束にこじつけていたが、今は夜で明日はチョコの準備やらで忙しくのん気に街をブラブラできない。 よって上条の体質上、当日には何が起こるかわからないため、14日の予定を確保するのは丁度同室の後輩の白井黒子が風呂に入っている今しかない。 …と美琴は頭ではわかってはいるのだが、今までの電話ではある意味まともに電話をしてまともな内容の会話をしてまともな終わり方をしたことがないので、自分が焦ったりや怒ったりで会話がちゃんと出来るかが不安だった。 (ええい、きっと成るように成るわよ!) ようやく決心のついた美琴は携帯のアドレス帳から、上条当麻を選択し通話ボタンを寸前で若干ためらったが、それでもなんとか押した。 トゥルル…トゥルル… コール音が1回鳴る毎に彼女心臓の鼓動が激しくなる。 (あぁもう早くでてよ!これじゃこっちがもたないじゃない!…にしてもなんて話を切り出せばいいんだろ…なんか急に話し出すのも…) このほんの少ししかない待ち時間にもかかわらず、理不尽になんの罪のない彼にあたってしまう。 そんな少しのことに対して怒ってしまう自分が嫌で仕方ない。 「ガチャ…おーっす、何か用か?」 「$\% !!??」 美琴はよくよく考えてみれば話の内容は決まりきっていたものの、それをどうやって聞き出すのかを考えてなかった。 なのでコールしている間にまとめようとするが、動揺している頭で迅速な処理が出来るはずもなく、突然の声に驚きの余り声にならない叫びを上げる。 「うわっ!!……ってなんだいきなり!」 「あ、ああアンタが急に声だすからでしょ!?」 「電話掛けてきたのお前だろ!!……はぁ、不幸だ…」 理不尽なのはわかっていた。 それは単なる八つ当たりな事もわかっていた。 しかし、美琴は極度の緊張状態に陥っていたため、まともな思考回路はどこかへ飛んでいってしまっていた。 (あぁもうだからそうじゃなくて!なんでこう上手くいかないのよ!) どうしてこうも素直になれないのか。 どうしてこうも簡単に理不尽なことをしてしまうのか。 美琴は自分の本心とは真逆の発言に苛立ちを覚えずにいられなかった。 「……んで?何か用があって電話かけてきたんじゃないのか?」 上条の声を聞き、幾らか正気が戻ってきた。 しかも、こちらから変に話を切り出すまでもなく向こうから話を持ち出してきてくれた。 このチャンスを見逃す手はない。 「ぁ…えと、その……」 「……まさか怒鳴るためだけにかけてきた、なんてことはないだろうな…?」 まずい、と美琴は思った。 いつもならば彼女はここで怒って、話が逸れ、挙げ句の果てには本題の話をできずに電話を切ってしまうだろう。 しかし、今日この時だけは事情が違った。 目的の日に、彼女の中に秘める想いを確実に告げることができるかできないかの瀬戸際なのだから。 恥ずかしい気持ちはあった。 苛立ちもあった。 だが今回だけはそれらを抑え、唯一の目標を果たすために口を開く。 「あ、あのね…今週末の日曜日、14日なんだけど……そ、その日空いてる?」 喋る内に少しずつ声量は小さくなっていたかもしれない。 でも電話越しの彼には確実に聞こえたはずだ。 美琴はなんとか勇気振り絞り、とりあえず1つの難関を突破できた事に安堵する。 「ん?14日なら午前中は補習だけど、その後なら空いてるぞ」 「本当に!?じゃ、じゃあその日の夕方いい、かな…?」 「ああ、いいぞ」 「よかった…んじゃ待ち合わせとか詳しい事はまた明日の夜にでもメールするから…じゃあね!!」 美琴は最後は約束を取り付けた事への安心から、気恥ずかしさが先行して早々に電話を切る。 (や、やった!約束できた!にしても疲れた…やっぱりこういうのは勇気がいるわね…) できたらこんな疲れる電話はもうしたくない、と一人呟きながらそのままベッドに横になる。 約束については嬉しい反面、ずっと緊張していたため終わった後の疲労感はすごい。 そのせいか、美琴は悶々として眠れていなかった最近とは対照的に、嬉しさと疲れが相まってすぐに眠りに落ちる。 背後からおぞましい怨念放つ者の存在に気づかずに… (お、お、お姉様が誰かと14日に約束を…キィィーーー!!) 怨念の根源、白井黒子は実は美琴が電話を掛け始めるほんの少し前に戻っていた。 彼女は美琴にも声はかけたのだが、何やらぶつぶつと呟きながら考え事をしていた美琴は全く気づいていなかった。 なので黒子は会話を一部始終を聞いていたのだ。 (まぁ照れていたお姉様を見れた事は良しとしましょう…ですが!お姉様があそこまでテンパる相手は恐らく、いや、あの類人猿しかいない!!…あんの類人猿めがぁぁぁぁあああ!!こうなったら明日にでも血祭りにあげててさしあげますわ!!) そんな上条への恨みを晴らそうと固く決意する黒子を背後に美琴はぐっすり眠っていた。 同日、上条宅 「何だったんだ?あいつ…」 上条は美琴との電話を終え、通信の途絶えた携帯を片手に疑問に思う。 何やら怒ったと思えば、次は黙る。 黙ったと思えば、14日予定を聞いてきた。 彼は美琴を色々とつくづく忙しい奴だなとも思う。 (にしても14日って…勿論『あの日』だよな?なんでまた俺…?) しかし、彼が一番疑問に思ったのはそれらではなく、女の子にとっては1年でかなり重要な日のバレンタインに自分を誘ってきた事である。 無論、それが嫌という訳ではない。 むしろ逆だった。 上条は美琴の事を好き、まではいかずとも気にはなっていた。 美琴は整った容姿とスタイルをもち、世界でもトップクラスのお嬢様学校の名門常盤台の学生、そして誰とでも分け隔てなく接することができて様々な人に慕われている。 そんな彼女を気にするなというのが難しいだろう。 さらに美琴は上条の記憶喪失についてカエル顔の医者を除けば、唯一知っている人間だ。 つまり上条は彼女に対して変に取り繕う事はしなくてもよい。 上条もそれらがわかっているからこそ気にはなっているのだが、彼の中でひっかかるところがあり、好きとまではまだいっていない。 それは彼女が名門のお嬢様学校とはいえまだ中学生であることと、そして何よりも自分の不幸体質にあった。 前者は世間体を気にせず、なおかつ自分がしっかり理性を保てば済む話だ。 だが後者はそうはいかない。 上条は自分が不幸なために人を好きになれば、他人にもそれが起きてしまうのではないかという事を恐れていた。 例がないので実際にあるのかはわからないし、他人に不幸が起きた事は今自分がもつ記憶の上ではない。 それでも上条は怖かった。 自分のせいで他人が不幸になること、幸せになれないこと、これらは彼にとっては一番許せないことである。 なので彼には人を気になることはあっても、好きになることには抵抗を感じていた。 そういうこともあり、一応恋愛には人並み程度に憧れてはいても、自分には縁のないものだと決めつけ、他人の心に気づかないというところに繋がっているのたが。 (……まぁいずれにしても、14日になればわかるか) 今いくら考えてもあくまでも推測でしかないからな、と上条は考えること一旦やめ、手に持っていた携帯をしまい、眠りについた。 2月13日土曜日AM6時、常盤台女子寮 御坂美琴のこの日の目覚めは早かった。 理由は言うまでもなく昨晩の出来事。 (私…ついにやったんだな…) 美琴は不意に携帯へ目を向けると思わず口元が綻んだ。 上条の予定を確保した今、もう彼女に迷いはない。 14日に上条にチョコを渡し、告白すると決心したからだ。 後は今日中にチョコを作ればそのための全て条件が揃う。 今日は忙しくなりそうだと意気込む美琴は起き上がり、顔を洗うために洗面所へ向かった。 途中、相部屋の白井黒子が「類人猿め…あの若造めが…」などとぶつぶつ言いながら何やら考え事をしている姿が彼女の視界の片隅に入ったが、今日つくるチョコの事と明日の事で頭がいっぱいなのでそんなことは勿論気にしなかった。 同日午前、とあるスーパー 意気揚々と材料調達に向かった美琴であったが、一つ問題があった。 (私、そういえばアイツの好み知らない…) 彼女今の今までただ漠然と『チョコをつくる』ことしか考えておらず、具体的にどんなチョコにするか、どの程度の甘さにするかなどを全く考えていなかったのだ。 さらに、それの指針となる上条の好みを彼女は知らない。 別に気持ちさえ伝わればいいか、とも思うがせっかくチョコを作ってあげるのだから喜んでもらいたい。 それらの思考が絡みあった結果、材料の調達もできず売り場の前で美琴は立ち尽くす事しかできなかった。 「あれ?御坂さんこんな所でどうしたんですか?」 美琴は突然声をかけられた方へ向く するとそこには頭に満開の花を乗せた初春飾利とその友達の佐天涙子が立っていた。 彼女達もまた明日がバレンタインということで、チョコを買いにここに足を運んだのである。 「え?あ、いや、ほら…その…」 突然声をかけられ、美琴は動揺する。 今のご時世、友チョコという言葉も存在するため、特に隠す必要もないのだが、やはり彼女にとっては何故だか恥ずかしさもありすぐに口を開くことはできなかった。 「もしかして、御坂さんもチョコですか?」 「ああ…うん、まあそんなとこかな」 なにやらはっきりしない美琴の発言に声をかけた初春は首を傾げる。 そこで隣にいる佐天が何かをひらめいたようにすると、急にニヤニヤとした顔で、 「あれぇ御坂さん、もしかして…明日手作りの『アレ』を好きな人に渡しちゃったりします?」 「ッ!!」 美琴はいきなり核心を突かれ、肩をビクンと大きくゆらし、一瞬で顔を真っ赤にそめる。 その反応を見た佐天はニヤニヤとした表情を崩さず、じっと美琴を見つめ、それは初春にも伝染していった。 (ビンゴ!?まさかのビンゴ!?) (この反応は…そ、そうなんですね御坂さん!) 普段は凛とした立ち振る舞い、はきはきとしてどこか男勝りな一面さえあるあの美琴が、恋する乙女のテンプレのような反応をみせた。 さらに彼女のこのような反応は二人は見たことがない。 したがって、まず間違いなく自分たちが言っていることは合っていると二人は確信する。 「ち、ちち違うわよ!大体、私には好きな人なんていないんだから!!」 「御坂さん、別に隠さなくてもいいんですよ?女の子なら誰でも通る道じゃないですか」 「ああもう!違うったら違うの!!」 美琴は2人に見つめられ慌てて取り繕うとしたが、波に乗った佐天はいくら否定されても止まらない。 なんだかんだ言っても彼女たちは年頃の中学生には変わりはない。 恋というものには当然ながら興味はあるし、それもあこがれの先輩の恋話となれば結果はどうなるかなど目に見えてくる。 「御坂さん好きな人ですか~。一体どんな人なんでしょうか…」 「ッ!!違うって言ってるのに…うぅ…」 そこに追い討ちをかけるような初春の一言。 否定しても2人は勝手に話を進めていき、美琴は涙目にしてバレる事を半ば諦め次第におとなしくなり、物を言わなくなった。 美琴としてもこれは初めての恋。 羞恥もさることながら、友達が相手であっても、どう話してよいものかはわからない。 「何か困ってる事でもあったら相談のりますよ?困っているように見えましたので」 そこに佐天が美琴に助け舟を渡す。 美琴は確かに困っていた。 しかし、彼女がそれを話すことは好きな人がいると話すということと同義で、この2人にはもう一生頭が上がらなくなると気がした。 それでも美琴は上条には喜んでもらいたい。 中途半端にやるよりは恥を忍んでで聞いてもらった方が、いい結果になるはず。 冷静に考えて1人で悩んでダメだったことから、今この差し伸べられた手を掴み相談にのってもらうことが最善と考えた。 「……誰にも言わないでね」 「え?あ、勿論ですよ!」 美琴念のために釘を刺しておく。 それに対し2人は初め本当にのってくるとは思っていなかったようで、一瞬驚きの表情を隠せなかったが、美琴の力になれるならとその後は胸をドンと叩き胸を張って答える。 (はぁ、後輩に頼ってて大丈夫なのかな私…) 普段は頼らない後輩に頼ってしまう自分に多少の不安と苛立ちを覚えるが、どれも彼が喜んでくれる事を考えれば少し楽になる。 そこでとりあえず彼女はどういう理由で悩んでいたのかを説明し、現状の打開策を考えることにした。 「-----という訳なのよ…私どうすればいいかな?」 「んー、ちょっと待ってくださいね…まだまさか御坂さんに本当に好きな人がいたことに対する驚きで頭が…」 こいつらは…と美琴は内心舌打ちする。 カマをかけてきたのはむこうなのだ。 無責任にもほどある。 「それじゃあ、その人はどんな感じの人なんですか?」 「へ?…言わなきゃ、ダメ?」 「それがわからないとアドバイスのしようがありません」 それもそうかと美琴は頷く。 どんな人かも分からないのでは話にならないのだが、やはり抵抗がある。 だが、そもそも1人で無理だったのだから相談にのってもらってるわけで、美琴には拒否権はない。 それがわかっていても恥ずかしいものは恥ずかしい。 悩みながらもようやく観念した美琴は顔を真っ赤に染めながら答える。 「えっと、そいつは年上で、バカで鈍感でムカつくけど、何かあった時は優しくて、私を救ってくれたり、守ってやるって約束してくれたりして…か、かっこよかったり…ゴニョゴニョ」 「おぉ!つまり、御坂さんのヒーローなんですね!?」 「ひ、ヒーロー!?そんな、あああアイツはそんな柄じゃ…」 ヒーローという言葉に過剰に反応する美琴に対し、なおもニヤニヤしながら美琴を見つめる2人。 だが、そのニヤニヤは先程までの好奇のものから羨望のものへと変貌していた。 (御坂さん、かわいいです!) (くー!いいないいな!私もそういう人欲しい!) 「あぁもう!そういうのはいいから、結局私はどうすればいいのよ!」 美琴はその空気に耐えられなくなり、周りの目も気にせず叫んだ。 美琴が顔を真っ赤にして若干涙目になっているを見て流石にこれ以上はと思った2人は追撃を止めることにする。 とはいえどんな人物かも全体を把握できずに、断片的な情報だけでは助言をしようにもたかがしれている。 彼女達も美琴同様大いに悩んだ。 「やっぱり…無理かな?」 美琴はその二人の様子を見て、申し訳なさそうに問いかける。 しかし、佐天と初春は美琴の力になりたかった。 普段そこまで自分のことを話さない美琴からこれだけの情報を受け取ったからということもある。 だがそれだけじゃなく、先輩で常盤台中学に通うお嬢様の美琴をなんとしても応援したかった。 しかも相手が美琴の初恋の相手だと言うなら尚更だ。 「んー、正直その人がどんなチョコをあげれば喜ぶかというのはわからないんですが、あたしが男なら手作り、それも御坂さんが頑張って作ったチョコを貰えればそれだけで十分嬉しいですけど」 「そうですよ。それに御坂さんの話を聞く限り、その人は人の気持ちを無下にするような人じゃないと思いますよ?」 「そう…かな?」 「少なくとも私はそう思いますよ。大事なのは気持ちですよ」 ねー♪と2人は向かい合って仲良く声を揃えてはしゃぐ。 (気持ち…そうよね、アイツなら私が気持ちを込めて作ったチョコを無下にはしないわよね) 依然としてはしゃいでる2人を横目に美琴は今まで心の中でもやもやとしていたものを断ち切る。 美琴は後輩にも頼ってしまったし、あまり知られたくないことも多々知られしまったが… (1人でダメだと思ったら他の人を頼ればいい…か、やっぱりこういうことも大事なんでしょうね) 以前妹達の件で鉄橋で言われた言葉を思い出しながら、その大切さを学んだ。 1人で悩むのは確かに辛い。 対して悩んでいる話題を他の誰かと共有することは楽だし、何よりも1人ではどうしようもない事も解決できる。 あの妹達の件がそうであったように。 美琴の性格上他人に頼りきるということはしないであろうが、それでも少しずつ他人を頼ることも覚えていこうと思えた。 「んじゃ初春さんと佐天さんはこの後どうするの?私は買い物するけど」 するべきことがみえたら早く行動に移したかった。 今心の中から溢れ出る強い気持ちが冷めない内に。 「私達もお手伝いします!と言いたいところですけど、こればっかりは御坂さんが頑張らないと意味ないですよね」 「あたし達のことは気にせず、チョコ作り頑張って下さい!明日、陰ながら応援してますよ!」 「そっか…それじゃ相談のってくれてありがと、またね」 「いえいえ、そんな礼言われる程のことしてませんって」 「お土産話期待してますよ!」 そういいながら、最後の最後で目の輝きを取り戻した2人と美琴は別れた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲 12月23日 ――――――――― 喫茶店を出て、気が付くとアイツと手を繋いで歩いていた。 アイツの顔は、まるでさっき飲んだストロベリージュースのように赤くなっていて。 わたしの顔も、アイツと同じように赤くなっている、と思う。 美琴(…ってか、なんなのよ!?この状況!?)/// 理解不能。意味不明。 美琴(コイツはいったいどうしたいのよ!?)/// 喫茶店を出てからはずっと無言で、だけど、いつの間にか手を繋いでいて。 さっきから胸はバクバクしっぱなしだし、掴まれた右手はじっとりと汗ばんでしまっているように思えるし、それはそれで女の子として凄い恥ずかしいっていうかなんていうか…。 美琴「ね、ねえ?どうしたのよ?」 上条「…なんて言えばいいのか、考え中です」 美琴「なによそれ?」 上条「いろいろしちゃいましたから」カァッ 美琴「確かに、いろいろ、しちゃった…わね」カァッ 上条「正直、やりすぎた感じが否めないわけですが、…御坂のアレが一番ヤバかった」 美琴「よーし、今すぐ忘れろ忘れるのよ忘れなさい!!」ビリビリ 上条「ちょっと待って御坂さん!自分から舐めといてそれはあんまりじゃないでしょうか!?」 美琴「へ?」 上条「その、指で拭ってペロッって…」 美琴「ぎゃああああああああ!!なに言ってるのよアンタ!!」(てっきりパンツのことかと思ったじゃないの!)/// 上条「いや、でもなあ。アレは反則だぞ」 美琴「な、な、仲のいいお友達なら普通のことよ!」 上条「女の子同士ならいいかもしれないけど、上条さん男の子ですよ!?」 美琴「ア、ア、アンタならわたし、気にしないけど!?」(って、なに言っちゃってるの!?わたし)/// 上条「御坂…。お前俺のことそんな風に見てたのかよ」 美琴「うぇ!?そ、そ、そ、そ、そんな風ってどんな風に見られてると思ってるのよアンタ!!」 上条「んー。お前の言葉を借りれば『仲のいいお友達』ってやつか?」 美琴「そ、そ、そ、そ、そうね!!そんな感じかしら!?」 上条「そっか。…まあ、そうだよな」ギュッ 美琴「!?」(な、なんで急に握り締めるのよ~!?)/// 頬が熱くなるのを自覚しながらアイツを見ると、アイツはなんとなく寂しげな表情を浮かべているように思えた。 なんとなくそれが引っ掛かった。アイツはわたしのことどう思っているのだろう。 美琴「ア、アンタは、どう思ってるのよ。…わたしのこと」ギュッ 不意に握り締められたお返しにとばかりにわたしは質問とともにアイツの手を握り返した。 アイツの視線が、わたしの視線と重なる。 上条「あー。その上目遣いも反則だ」/// 美琴「アンタわたしより背が高いんだから仕方ないじゃない」 上条「そ、そうか。まあ、御坂は俺のことを、記憶のことも含めてよく知ってくれている数少ない仲間…っていうか、戦友?とも違うな…。うーん。なんて言えばいいんだ?」 美琴「…」(まあそんなことだろうとは思っていたけど) 上条「まあ、気心の知れた相手って言えばいいのか?そんな感じだったんだ。…昨日までは」 取って付けたように漏らした『昨日までは』という言葉に、美琴は違和感を感じずにはいられなかった。 美琴「どういうこと?」 上条「えーっとだな、ちょっと長くなるけど、聞いてくれるか?」 美琴「いいわよ」 上条「とりあえず、階段のところにあるベンチまで行こう」 美琴「別に歩きながらでもいいけど?」 上条「あんまり他人に聞かせたくないんだよ。あそこなら誰かが来てもすぐわかるし、寒さも凌げるから」 美琴「わかった」(他人に聞かせたくないって、どういうこと?)ドキドキ 建物の中に入り、ファンシーショップやブティックの間の通路を、二階へと続く階段へと歩いていく。 そのまま階段を上り、中二階の登り階段側に置かれたベンチの前で立ち止まると、―気のせいじゃなければ少し躊躇いながら―繋いでいた手を離した。 上条「座って」 美琴「うん」 促されるまま、わたしはベンチに腰を下ろす。するとアイツはわたしの右横に腰を下ろして、膝の上で両手を組む。 上条「…昨日、お前に電話しただろ?買い物に付き合ってくれってさ」 美琴「うん」 上条「あれさ、友達と他愛のない話をしているうちに、御坂のことが話題になって、誘ってみろって言われて買い物に誘ったんだ。アイツが言うには二つ返事で了承するからって」 美琴(なんだ。自分から誘おうと思ったんじゃないんだ)ショボン 上条「で、そのとおりになってさ、…正直言うと焦った。断られると思ってたから」 美琴「…」(あー。コイツの中じゃ断られること前提だったから勝手に勘違いしたのね) 上条「それで、部屋に帰ってから、気が付くと御坂のこと考えてたりしてさ」 美琴(え?それって?) 上条「俺って結構、御坂に助けてもらってるなとか思ったりなんかして」 美琴「そ、そんなことない…でしょ?」 上条「御坂に勉強を見てもらったおかげで補修は免れたし、家計がピンチの時にはインデックスともども美味しい豪勢なご飯を作ってもらったし、御坂になら安心して背中も任せられるし」 美琴「べ、別にそんな大したことじゃない」アセアセ 上条「いやいや、そんな謙遜しないでくれ御坂。インデックスのこと何かとフォローしてもらったりさ、ホント、感謝してる」オジギ 美琴「まあ、女性にしかわからないことってあるしね。むしろアンタが完璧にあの子のことフォローできてたら退くわよ」 上条「はは。確かにな。ま、ともかく上条さんは御坂に感謝してるわけですよ」 美琴「はいはい。あの子のことは今、関係ないでしょ?」(今はアンタの話をしてるんでしょうが) 上条「悪い。話が逸れたな。えっと、どこまで話したっけ」 美琴「感謝してる、ってトコ」 上条「そ、そっか。…えーっと、そんなわけで今朝も朝も早く目が覚めたりなんかしてさ」 美琴(わたしなんて眠れなかったんだから。…なんて言ったらどう思うかな?) 上条「早めに部屋を出て公園で御坂を待ってるときに、なんつーか、凄い楽しみにしてる自分がいてさ」 美琴「ちょっと待ってアンタ。そういえば震えてたけど、いつから公園で待ってたのよ」 上条「ん?御坂が来る十五分くらい前かな」 美琴「そ、そう」(ん?コイツ今、『凄い楽しみにしてる自分がいて』って言った?) 上条「おう。それでお前が来て、いきなりアレだろ?上条さん頭の中が真っ白になりましたよ」 美琴「う、アレは、アンタが寒そうだったからつい、その。…黒子にくっつかれたとき温かかったから、ね」カァッ 上条「やっぱり女の子のスキンシップだったんだな。うんうん。次からは気をつけような」ナデナデ 美琴「うにゃっ、いきなり撫でるな!」/// 上条「ビリビリ対策です。さすがにここで電撃はよろしくないので」ナデナデ 美琴「うぅ」/// 上条「それでまあ、ゲコ太のためにカップルケーキセットを頼んで、いろいろやっちゃったわけですけど」カァッ 美琴「…何でそこで赤くなるのよアンタ」 上条「…スマン、…その、ゲコ太思い出した」カァッ 美琴「よーし今度こそ今すぐ忘れろ忘れなさい忘れるのよ!」 上条「お、お、お、落ち着いて御坂さん!もうちょっとで上条さんの話し終わるから!」 美琴「…それで?」 上条「俺は友達に『デートの邪魔するな』って言っただろ?その後、御坂が白井に同じこと言ってさ」 美琴「う、うん」/// 上条「それを聞いてさ、俺、喫茶店を出ても御坂とデートしていたいって思ったんだわ」カァッ 美琴「…え?」 上条「それで御坂の手を掴んで、とりあえずどう伝えればいいものかって考えていたら、声をかけられたってわけ」 美琴「…ちょっと待って、整理させてくれる?」 上条「ああ」 美琴「昨日から今朝のアンタの心境は、…まあ置いといて」 上条「ひどっ」 美琴「簡単に言うと、わたしとデートしたいってこと…かな?」ドキドキ 上条「う…、はい。そうです」カァッ 真っ赤になって視線を逸らすアイツ。 『デートしたい』っていうのを素直に認めたのは嬉しいけど、問題はそこじゃなくて。 美琴「…ねえ、わかってる?アンタ」 上条「なにをでございましょう?御坂さん」 美琴「デートの意味」 上条「う…。まあ、わかっているつもり…です」カァッ 美琴「ふぅん。じゃあ、…その前にすることがあるんじゃない?」 大事な、とても大事なこと。 上条「あー、御坂。ひとつ聞いていいか?」 美琴「なによ?」 上条「そうなったら、…お前は俺とデートしてくれるのか」/// 美琴「…アンタ、ずるい」 上条「な、なんでだよ?」 美琴「わたしの答えを聞いて、回避しようとしてるの見え見えじゃない」ハァ 上条「う…」 美琴「…まあ、わたしは嫌いじゃないわよ。アンタのこと」/// 上条「…」 美琴「…」ドキドキ 上条「御坂…」ドキドキ 美琴「…」ドキドキ 上条「…」ガバッ アイツは、掠れた声でわたしを呼ぶと、次の瞬間、左手でわたしを抱き寄せた。 美琴「ふにゃっ!?」ビクッ 上条「悪い。お前の顔見て言えないから、こうさせてくれ」ダキッ 美琴「う、うん…」ドキドキ 上条「好きだ!御坂。付き合ってくれ」/// 美琴「…」 上条「…」ドキドキ 美琴「…うん」 嘘みたい。 これって、夢じゃないよね? 美琴「…ね、ねえ?」 上条「な、なんだ?」 美琴「わたしで…いいの?」 上条「御坂じゃなきゃ、嫌だ」 美琴「ホント?」 上条「本当だ」 美琴「じゃあ、もう一回、わたしを見て、言って」 アイツの左手をそっと押しながら、わたしはアイツへと向き直った。 アイツも、左手を離しながら、わたしの方を向く。その顔は林檎のように真っ赤だった。 上条「わたくし、上条当麻は御坂美琴が好きです。付き合ってください」/// 美琴「…わたし、御坂美琴も上条当麻が、好きです」/// そう返したわたしの顔も、きっと負けず劣らず真っ赤になっているだろう。 上条「み、さか…」 想いが止まらない。気が付くとわたしは言っていた。 美琴「ずっと、好きだったの」 上条「…マジで?」 美琴「…アンタは、まったく気づいてなかったけど」 上条「悪い」 美琴「でも、アンタが言ってくれたから、許す」 上条「御坂…」 美琴「ねえ、最初のお願い。彼氏なら、わたしのこと、名前で呼んで」 上条「…美琴」 美琴「よく、できました」ニコッ 上条「はは。なんだよそれ」 美琴「えへへ」 上条「あ、じゃあ、お前も俺のこと名前で呼んでくれるのか?」 美琴「ふにゃ!?アンタのことを名前で!?」カァッ 上条「俺だけ名前で呼ぶんじゃ不公平だと思いますけど?」 言われてみて気付く。確かに不公平かもしれない。えーっと、コイツの名前は…。 美琴「と、と、と、と、とうみゃ!?」/// 思いっきり噛んだ。慣れないことはしちゃいけない。 上条「なに噛んでんだ、落ち着け」 美琴「だ、だ、だ、だって、今までそんなこと考えてなかったし」/// 上条「付き合うことになったら名前で呼ぶとか思わなかったのお前?」 美琴「ことごとくスルーされてる相手と付き合うことになった後のことなんて考えられないわよ」 上条「…あー、スマン」 美琴「わかればよろしい」 上条「…俺は、たまに名前で呼んでたけどな」ボソッ 美琴「へ!?それってどういうこと!?」 上条「んー。今考えると結構前からお前のこと好きだったのかもしれない。お前が中学生だからストッパーかけてたんだと思う」 美琴「そ、そういうものなの?」 上条「たとえば、お前の同級生が小学生の男の子を好きだって言ったらどう思う?」 美琴「…ショタコンってやつかしら?」 上条「そうだろ?だから俺が中学生を好きだって言うと、同級生からロリコンと思われるわけだ」 美琴「ああ、そういうものなのね」 上条「そうなんですよ」 美琴「アンタとわたし、二つしか違わないんだけどねー」 上条「そうだな」 美琴「そのくらいの差って普通よね?」 上条「ああ」 美琴「じゃあ、考えるのやーめた」ダキツキ 上条「お、おい、当たってる。当たってるから」/// 美琴「嬉しいでしょ?と・う・ま」ニヤニヤ 上条「お前、キャラ変わってるぞ!?」カァッ 美琴「いいじゃない。積極的な彼女は嫌い?」ギュッ 上条「嫌いじゃない、嫌いじゃないけど、ここではヤバイ」 美琴「むー。どうしてよ?」 上条「馬鹿!お前、健全な男子高校生の性欲舐めるな!」 美琴「せっ!?」/// 上条「とりあえず離れる、離れれろ、離れましょう!そして上条さんにクールダウンの時間をください!」 美琴「せ、せ、せ…」アワアワ 上条「おーい、美琴さーん?」 美琴「ふにゃあああああっっ!!」プシュー 上条「み、美琴!?なんで倒れるの!?ふ、不幸だああああああ!!」 それぞれ、大きな紙袋を抱えて、巫女装束が似合いそうな黒髪の少女と背の高い青髪の少年が肩を並べてショッピングモールを歩いている。 青ピ「ホンマ助かったわ。ありがとな、姫神ちゃん」 姫神「ううん。こちらこそ。ありがとう」 青ピ「どうして姫神ちゃんがお礼言うんや?」 姫神「私も。クリスマスオーナメント買いに来たから」 青ピ「ってことは、もしかしてボク、姫神ちゃんとお揃いのツリー!?」ハッ 姫神「お揃いってことは無いと思う。あと。小萌のツリーだし」 青ピ「小萌先生のツリー!?」 姫神「明日。小萌の家でクリスマスパーティ」 青ピ「なんやて!?」 姫神「女の子だけ。…あ。あの子は男の子だったかな?」 顎に人差し指を当てて考えるようなポーズをとりながら、少女が言うと、少年のこめかみにビキッっと青筋が浮かび上がる。 青ピ「…ボク、そいつに殺意が芽生えたで」 姫神「ふふ。シスターの連れてくる猫だけど?」 青ピ「猫かい!」 姫神「ふふ」 青ピ「…姫神ちゃん、案外、意地悪やな」 姫神「そうかな?」 青ピ「うん。今のわざとやろ?」 姫神「ふふ。どうかな?」 そう言って笑う少女を、背の高い青髪の少年は眩しそうに見つめていた。 青ピ(あかん。その笑顔は反則やで) 姫神「どうしたの?青ピ君」 青ピ「んー?姫神ちゃんは今日も綺麗やなーって思って見とれてた」 姫神「青ピ君は。お世辞がうまいね」 青ピ「お世辞じゃないで?姫神ちゃんはホンマに綺麗やし」 姫神「ふふ。さっそく猫のお返し?」 青ピ「ま、そういうことにしておくわ」 姫神「ふふ」 パステルピンクに彩られたクレープショップの前で青髪の少年が振り返る。 青ピ「さ、ついたで。姫神ちゃん、なに食べるん?」 姫神「チョコバナナストロベリースペシャル」 青ピ「じゃ、ボクはハニーベリーズで。…おにーさん、作ってる間に自販機で飲みもん買って来てもええ?ほな、ちょっと行ってくるわ。姫神ちゃん、なに飲む?」 姫神「んー。ココア」 青ピ「おっけー。ほなちょっとここで待ってて」 姫神「うん」 そう言うと青髪の少年は自動販売機まで走っていき、飲み物を二本買うと、また走って戻ってくる。 それから店先に置かれたベンチに持っていた紙袋を置いて、手招きをした。 青ピ「姫神ちゃん、ここ、ここ座って」 姫神「わかった」 青ピ「はい、ココア」 姫神「ありがとう」 青ピ「お、クレープできたみたいやな?もろてくるからちょっと待ってて」 姫神「うん」 青ピ「おおっ!?スペシャルってごっついなー。スプーンまで刺さってるんや。…ほなこれで。おおきに。姫神ちゃん。お待たせ」 姫神「ありがとう。いただきます」パクッ 青ピ(可愛いで。姫神ちゃん) 姫神「ふふ。美味しい。幸せ」パクッ 青ピ「…ボクも幸せや」 姫神「まだ。食べてないのに。幸せ?」 青ピ「うん。姫神ちゃんの幸せそうな顔見たら、幸せやなーって」 姫神「そ。そうなんだ」/// 青ピ「へ、変なこと言うてゴメン。お、ホンマや、美味いで。このクレープ」パクパク 姫神「…」パクッ 青ピ「…」(や、やってもうた) 姫神「…」パクッ 青ピ(ちょい赤くなってる姫神ちゃんもなかなかええなぁ)パクパク 姫神「…」パクッ 青ピ(伏せ目がちなところもなかなか…)モグモグ 姫神「…そんなに。見ないで」/// 青ピ「ス、スマン。でも、見惚れちゃって」/// 姫神「馬鹿」/// 青ピ「…姫神ちゃん、やっぱりわざとやってるやろ。さっきから男の萌えポイントつきまくりやで」 姫神「そんなの。知らない」/// 青ピ「可愛い。可愛すぎるで、姫神ちゃん」 姫神「青ピ君。なんか。怖い」 青ピ「姫神ちゃんが可愛すぎるのがアカンのや」 姫神「私は。可愛くなんて。ない」 青ピ「姫神ちゃんは自分の魅力に気がついてないんやな」 姫神「もう。知らない」パクパクッ「…ぐむ!?」ドンドン 青ピ「姫神ちゃん、落ち着いて!ココアを飲むんや!ココア!!」 姫神「…」ゴクッゴクッ「…はぁ」 青ピ「大丈夫?」 姫神「な、なんとか」 青ピ「よかった」ホッ 姫神「…ごめんね」 青ピ「なにが?」 姫神「心配させた」 青ピ「心配するんはボクの勝手やん?姫神ちゃんが悪く思うことないんやで?」 姫神「でも…」 青ピ「デモもヘチマもないで?」 姫神「…」 青ピ「…じゃあ、明日もボクの買い物付き合ってや。それでご破算」(なーんて) 青髪ピアスはあくまで冗談で誘ったのだが、姫神秋沙は唇に人差し指をあてて何か考えるようなそぶりを見せた後、小さく頷いた。 姫神「別に。いいよ」 青ピ「…マジで?」 姫神「うん。小萌の家のパーティーは夕方からだし」 青ピ「言ってみるもんやなー」 姫神「ふふ。なにそれ」クス 青ピ「じゃあ、今日はこれで帰るとしよか。…ホンマは今日買い物しとこ思たけど、明日付き合うてもらえるし」 姫神「わざわざ出直すなんて。何を買うの?」 青ピ「せやなー。姫神ちゃんへのクリスマスプレゼントとか」 姫神「ふふ。お返ししなくてもいいなら」 青ピ「姫神ちゃん。悪女やなー」 姫神「ふふ。そういうことにしておく」 青ピ「じゃ、途中まで一緒にいこか?」 姫神「そんなこと言っても。小萌の家は。教えない」 青ピ「あ、ばれた」 姫神「ふふ。残念でした」 学生寮方面(常盤台中学前方面)へのバスが出るバス停へ向かいながら、並んで歩く。 青ピ「で、明日はどないする?」 姫神「んー。9時40分ごろにバス停」 青ピ「また中途半端やな」 姫神「バスの時間に合わせただけ」 青ピ「…姫神ちゃん。できる女やね」 姫神「ふふ」 青ピ「ほなそれで。お、ちょうどバスがきたやん」 姫神「ナイスタイミング」 青ピ「ほな、帰ろか」 姫神「うん」 青ピ(あれ?姫神ちゃんとボク、ええ感じやない?) 姫神「どうしたの?青ピ君?」 青ピ「ん。なんでもないで」 姫神「そう」 青ピ「うん」 バスに乗り込むと、少女は運転席の後ろの席に座り、少年はその後ろの席に座った。 少女の隣が空いていたが、そこに座る勇気は少年には無かった。 姫神「隣。座ればよかったのに」 青ピ「いや、狭いやろ?」 姫神「そうかな?」 青ピ「そうやで」 姫神「まあ。これでも。話はできるけど」 青ピ「せやな」 姫神「…ねえ。青ピ君」 青ピ「ん?なんや?姫神ちゃん」 姫神「今日。楽しかった?」 青ピ「ああ。楽しかったで」 姫神「…そっか」 青ピ「うん」 姫神「…ありがとう」 青ピ「なんか、今日、姫神ちゃんそればっかりやな」 姫神「そうかな?」 青ピ「そうやで。今日は、姫神ちゃんも楽しんでくれたなら、ボク、それで満足や」 姫神「…うん。楽しかった」 青ピ「そない言ってくれると嬉しいわぁ」 姫神「ふふ」 目的地がアナウンスされると、少女が手を伸ばしボタンを押した。 ほどなくしてバスが停車し、少女が立ち上がる。少年もそれに続いて立ち上がるとバスを降りた。 姫神「じゃあ。また。明日」 青ピ「うん。また明日」 少女が建物の影に入って見えなくなるまで、少年はその後姿を見送ると、自分も下宿へと向かって歩き始めた。 佐天「う~い~は~る~。隙あり!」バサッ 初春「ひゃあああっ!!捲らないでください佐天さん!!」/// 佐天「ピンクの水玉ゲットォ~!」 初春「そんな大声で言わないでください!!もおっ!!」/// 佐天「あはは。ゴメンゴメン。ところで、初春?御坂さんはここで間違いないんだよねえ?」 初春「…う。駄目ですよ佐天さん。御坂さん怒りますよ」 佐天「えー。昨日、あたしをハブってマコちんたちとバーガーショップ行ったのは何処の誰かなあ?」 初春「だ、だって佐天さん、用事があるってさっさと帰っちゃったじゃないですか」 佐天「まーそれはそれ。ホントは初春だって見たいんでしょ?恋する乙女の御坂さんをさ」 初春「わ、私はやっぱり、覗きはいけないことだって思うんです」 佐天「まーまー、そんな都合よく見つかるとは限らないんだし。それにあたしたちはショッピングに来たんだからさ。たまたま御坂さんに遭遇するってことがあるかもしれないってだけよ」ニカッ 初春「そうですよね。そんな都合よく見つかるなんて…ことは…」ハッ 言いかけて頭に花飾りを付けた少女は足を止め、目を見開いて口を押さえる。その頬はみるみる真っ赤になっていった。 初春(み、み、み、み、御坂さーーーん!!)カァァァッ 佐天「初春?どうしたのーって、ぬっはぁっ!?」 初春「だ、だ、だ、駄目ですよ佐天さん!大声出しちゃ!」ボソボソ 佐天「いやー。衝撃の出来事にあたくし佐天涙子、困惑しております」ボソボソ 近くのファンシーショップを覗いている振りをしながら、少女たちは階段の方をチラ見していた。 踊り場のベンチに座っているツンツン頭の少年。その少年に膝枕されて横になっているのは、少女たちの友人に間違いなかった。 佐天「あれって、どういうシチュエーションなの?」ボソボソ 初春「御坂さん、眠っているみたいですね。昨日眠れなくって力尽きたとか…じゃないですかね」ボソボソ 佐天「おおっ!?髪を撫でてる。それに優しい目で御坂さんを見てますよ」ボソボソ 初春「うーん。恋人同士って感じですね。御坂さんの様子だとそういうのじゃないって思ったんですけど」ボソボソ 佐天「お?御坂さんがお目覚めのようです」ボソボソ 初春「あ、御坂さん赤くなってる」ボソボソ 佐天「慌てて立ち上がって後ずさった。あちゃー、修羅場か?」ボソボソ 初春「喧嘩ではないと思うけど、御坂さんにとって膝枕は予想外だったんじゃないかな?」ボソボソ 佐天「出るか!電撃…って、ぬっふぇっ!」/// 初春「はわわわわわっ!!」/// 二人の少女の目に飛び込んできたのは、ツンツン頭の少年が少女を抱きしめる光景だった。見ている方が恥ずかしくなるような雰囲気が二人から迸っている。 佐天「…い、行こっか?初春」/// 初春「そ、そうですね」/// いたたまれなくなった二人は慌ててその場を後にしたのであった。 ――― ――そっと愛しい少女の髪に指を通すと、自然と口元に笑みが浮かんだ。 夢じゃない。現実が幸福で塗り潰されていくような感覚。 少年は穏やかな微笑を浮かべ、眠る少女をただ、見つめていた。 ――― ――上条当麻は御坂美琴が好きです。付き合ってください。 肩を引き寄せられての突然の告白。 今まで、そんなそぶりなど見せたことの無い少年からの、突然の告白。 胸が壊れそうなほど、激しく早鐘を打っている。 まるで目覚まし時計の鐘のように。 美琴「…ん」 上条「…」 美琴「んぅ。…夢かぁ」ショボン ――アイツが、あんなことを言うのはいつも夢の中のことだ。 だから、目が覚めたとき、傍にアイツがいなければ、それは夢ということになる。 美琴(ん?でもここ、寮じゃない…) 上条「何が夢だって?」 頭の上から声をかけられる。紛れも無くアイツの声。 美琴「ふぇ!?ア、ア、ア、ア、アンタ!!って!うぇぇぇぇ!?」/// 上条「お目覚めですか。姫」 美琴「うぇぇぇ!?ひ、膝、膝枕!?」/// 上条「落ち着け、美琴」 美琴「あ、あぅあぅ」(な、名前で呼ばれた)/// 上条「目、覚めたか?」 美琴「さ、覚めた覚めた!そりゃもうばっちり!!」/// 言いながら少女は飛び起きて後ずさり、今、自分が置かれている状況を整理する。 ――喫茶店でカップルケーキセットを食べて、階段の踊り場でアイツに告白されて、自分も告白をして。そこで目を覚まして、アイツに膝枕をされていて。 美琴「あれ?…夢じゃない?でも夢?あれ?あれ?」 上条「なに混乱してるんだお前」 美琴「混乱?」 上条「…ったく。仕方ねえな」ギュッ 美琴「ふぇっ!?」/// ――何の前触れも無く、アイツがわたしを抱きしめる。でも、ぜんぜん嫌じゃなくて。 上条「好きだぞ。…美琴」 美琴「…あ」 上条「彼女になってくれるんだろ?」 ――ああ。そっか。夢じゃなかったんだ。 美琴「…うん。…当麻」ギュッ 上条「よく言えました」 美琴「馬鹿」 上条「寝ぼけてた奴に言われたくないな」 美琴「う…」 上条「…まあ、一世一代の告白を思い出していただけたなら、上条さんはそれで満足です」 美琴「…ありがと」 上条「どういたしまして」 ――忘れない。忘れたくない。 あんなにまっすぐで、とんでもなく心に響く言葉。幸せってああいうのを聞いたときの気持ちを言うのかもしれない。 わたしも素直に自分の気持ちを伝えられたし。 美琴「…あー…と、当麻のせいだ」 上条「ん?何が?」 美琴「わたしがこんなところで気絶したの。変なこと言うんだもん」/// 上条「そんな変なこと言ったか?俺」 美琴「『健全な男子高校生の』とか」ボソッ 上条「…あー。悪い。その、いっぱいいっぱいだったからさ」/// 美琴「なによそれ」 上条「…っ、さすがに公共の場で襲うわけにはいかねえだろうが」/// 美琴「なっ!!」(お、襲うって!?)/// 上条「でも、お前の柔らかさに我を忘れそうになったのは事実でありますので、美琴さんへの戒めの意味も含めてああいう表現を使用した次第であります」 美琴「あぅ…」/// 上条「ってか、こうしているだけでも、結構きてるんだけどな」/// 美琴「そっか」(わたしもドキドキしてるけど) 上条「というわけで、一旦離れましょう」 美琴「ん。わかった」 上条「でも、手は握るけどな」ギュッ 美琴「ん…。ありがと」ギュッ ――― セブンスミスト2階。紳士服売り場 上条「お、これは温いな」 美琴「わたしのお勧めはこれ。着てみて」 上条「軽っ!?なにこれ?」 美琴「カシミアよ。わたしのマフラーやコートと同じ」 上条「へー。いいな。これ」 ボタンを留めて体を動かしてみる。軽くて動きやすい。 美琴「…じゃ、それにする?」 上条「…へ?」 美琴「クリスマスのプレゼント」 上条「いやいや、美琴センセー。これ、上条さん家の一ヶ月の食費並のお値段ですよ!?」 美琴「わたしとお揃いって、嫌?」クビカシゲ(お揃いって言っても素材だけなんだけど) 上条「嫌ってことは無いけど、貰うには高すぎるって言うかなんていうか…」 美琴「わたしは、お揃いにしたいんだけど」 上条「うーん。でもなあ」 美琴「だいたい、この時期になってコートも着ていないなんておかしいわよ」 上条「いや、だから見に来たわけで」 美琴「それ、気に入ったんでしょ?」 上条「まあ、そうなんだけど」 美琴「じゃあ、わたしが選んだんだし、プレゼントさせて」 上条「だからお値段がですね…」 美琴「あのねえ、わたしとしては今朝みたいに震えてるアンタを見たくないの。…わたしの我侭なの。聞いてくれない?」 上条「美琴…」 美琴「駄目、かな?」ウワメヅカイ 上条「…貧乏学生の上条さんがこんな凄いコート着てたらおかしくない?」(その上目遣いは反則だって) 美琴「デザイン的にはよくある普通のロングコートだし、大丈夫だと思うけど?似合ってるし」 上条「そ、そっか」 美琴「うん。いいと思う」 上条「あーもー。負けた負けた。でも本当にいいのか?」 美琴「うん」ニコッ 上条「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」ペコッ 美琴「じゃ、行きましょ」 上条「え?おい、脱がなくていいのか?」 美琴「いいのよ。そのまま着ていけば」 戸惑う少年の手を引き、少女は慣れた感じでカウンターにいた店員に声をかけ、カードを出して会計を済ます。その間に別の店員が少年の着ていたコートのタグや留め紐(コートのスリットを×で縫ってあるやつ)を取り除いてくれた。 美琴「お待たせ。準備できた?」 上条「ああ。全部取ってもらった」 美琴「じゃ、今度は下に行くわよ」 そう言うと、少女は少年の左腕を掴む。 美琴「腕、組んでいい?」 上条「しがみついたりしなければ、むしろ組みたい」 美琴「じゃ、組もっと」ギュ 上条(柔らかいものが当たってるんですけど、気のせい気のせい)「…なんか、店の商品を着たまま出て行くのって緊張するなあ」 美琴「ふふ。その気持ち、わかる気がする」 上条「で、何を見るんだ?」 美琴「んー。ダウンジャケットがいいかな」 上条「そのコート、よく似合ってるけどな」 美琴「ん?あ、わたしじゃなくってあの子にね。あの子も持ってないでしょ?防寒具」 上条「え?インデックスか?」 美琴「うん。アンタがコート着てるのを見て、あの子の分が無かったら噛みつかれるんじゃないの?」 上条「う…。ひ、否定できない」 美琴「だからあの子にもクリスマスプレゼントってことで。あ、わたしが贈りたいだけだから、アンタは気にしないで」 上条「悪いな。ありがとう」 美琴「だーかーらー。アンタに感謝される筋合いは無いっての」 上条「でも、ありがとう」 美琴「はいはい」 ――― 小萌「さーて、これで完成ですよ」 インデックス「なんだか楽しみなんだよ」 結標「ちょっと点けてみましょうか」 姫神「じゃあ。スイッチを入れる」カチ 小さいながらも細々と飾り付けられたクリスマスツリー。その電飾がキラキラと光を放つ。 インデックス「綺麗なんだよ!」 小萌「うん。綺麗ですねー」 結標「…なんか、こういうのも悪くないわね」 小萌「ふふ。そうですね」 姫神「綺麗」 インデックス「小さいけど、ヤドリギには使えそうなんだよ」ボソッ 小萌「シスターちゃんはロマンチストですねー」 インデックス「そ、そんなんじゃないんだよ!?」カァッ 姫神「…」 小萌に冷やかされてぱっと頬を染めるシスター。上条君。罪な人。 結標「ヤドリギって、なんだっけ?」 小萌「ふふふ。北欧にはクリスマスのヤドリギの下でキスをしたカップルは永遠に幸せになれるという言い伝えがあるのですよ」 結標「あー、私には関係ないわね」 インデックス「わ、わ、私にも関係ないんだよ!シスターとしてこもえやあいさやあわきがそういう風にしたくっても大丈夫だって思っただけなんだよ!」カァッ 小萌「シスターちゃーん?どこにそんなヤローがいるのか先生に教えてくれるかな?」 結標「だから私は関係ないって言ってるじゃない。それに、ヤドリギの下って言うくらいなんだから、こんなツリーじゃなくってショッピングモールのツリーの方がいいんじゃない?」 ショッピングモール。上条君と女の子が一緒にいたところ。 インデックス「あいさ。どうしたのかな?」 姫神「…上条君は。明日はここに来ないかも」 インデックス「とうまが?なんで?」 姫神「えっと。ごめん。正直に言う。上条君。さっき女の子とショッピングモールでデートしてた」 インデックス「…そっか。たぶんみことだよね」 姫神「みこと?」 インデックス「うん。たまにご飯作ってくれたり、服とか買ってくれたりするの」 小萌「上条ちゃんも隅に置けないですねー。超能力者と付き合っちゃうなんて」【注:新約2巻での砂場に落とした磁石に付いた砂鉄的な遭遇後、門前払い後に電気を纏いながら暴れているのは第三位の御坂美琴だと結標に説明されている】 結標「あれ、姫神さんも会っているはずだけど?常盤台の女の子に」 姫神「うーん。覚えていない」【注:新約2巻での砂場に落とした磁石に付いた砂鉄的な遭遇時、暴れる吹寄を抑えていたため】 インデックス「とうまが幸せなら私はそれでいいんだよ」ポロッ 小萌「シスターちゃん、泣かないで」 インデックス「あれ?おかしいな。なんで…ふぇ、ふぇぇぇぇん」ポロポロ 小萌「よしよし、上条ちゃんは悪い子ですねー。シスターちゃんを泣かせるなんて」ナデナデ インデックス「とうまのせいじゃないんだよ。みことのせいでもないんだよ。でも、涙が出ちゃうんだよ」ポロポロ 小萌「はいはい。思いっきり泣いてすっきりしちゃいましょうねー。夕御飯は豪華絢爛焼肉セットですよー」ナデナデ インデックス「ふぇぇぇぇぇんっ」ポロポロ ――― 上条「…なあ」 美琴「なーに?」 上条「今日、上条さん的にはクリスマスプレゼントとして髪飾りでも贈ろうかと思っていたのですが」 美琴「そ、そうなんだ」 上条「その、名前で呼び合える仲になったことだし、…上条さんって実は独占欲が強いわけでして」ギュッ 美琴(独占欲って)/// 上条「ペアリング、なんてどうだ?あまり高いのは買えないけど」 美琴「うん!嬉しい!」ギュッ【注:この話では、新約3巻のアレはありません】 上条「じゃ、じゃあ、どの店がいいかな?」 美琴「そうね。友達がよくネックレスとか見ているお店があるから、そこに行ってみよっか?」ニコッ 上条「お、おう」 必然的に少女が少年を引っ張っていく格好となる。少女はとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。 ――― 初春「あ、これなんて佐天さんに似合いそうですよ」 佐天「さっすが初春。あたしの好みを良くわかっているわね」 初春「あ、これなんか御坂さんに似合いそう」 佐天「どれどれー?おー、確かに」 美琴「あー、可愛いわねー」ヒョイ 初春「あ、御坂さん」 佐天「ちょうど御坂さんに似合いそうなヘアピンの話をしていたんですよーって、ぬっふぇ!?」 初春「なに変な声出しているんです…か」/// 二人の少女は声をかけられたので友人の方へ顔を向ける。するとそこには友人と男性が仲良く手を繋いで立っていた。 美琴「あははー。邪魔しちゃってゴメンね。姿が見えたから声かけなきゃって思って」(ついでにコイツの紹介なんかしちゃったりして)/// 佐天「いや、それはわざわざ恐れ入ります御坂さん。で!そちらの方は、つまり、その、御坂さんの、…彼氏さんでよろしいですか?」 美琴「あー、うん」/// 初春「はっ、はじめまして。私、柵川中一年の初春飾利です」(あっさりと認めた!?) 佐天「あたしは柵川中一年の佐天涙子でーす。はじめまして」 上条「あ、はじめまして。…なあ美琴?いきなりお友達紹介はハードル高いんじゃないか」ボソ 佐天「うっはっ!聞いた初春!?御坂さんを名前呼びだよ、名前呼び!」 上条「!」/// 初春「さ、さ、さ佐天さーん!失礼ですよー」アワアワ 佐天「んでんで、御坂さんは彼氏さんのことなんて呼んでいるんですか?やっぱり名前呼びだったりします?」 美琴「う、うん」/// 上条「いや、最初だけでさっきから呼んでくれないじゃないか」 美琴「ア、アンタは余計なこと言わない!」/// 佐天「御坂さーん、彼氏さんもこう言ってるんですから、呼んであげたらどうですか?」ニヤニヤ 美琴(しまったー。佐天さんのスイッチ入っちゃった!!)/// 初春「さ、佐天さん!御坂さんすみません」アセアセ 佐天「彼氏さんも名前で呼んで欲しいですよね?」 上条「そ、そうだな…」ボソッ 美琴「!」 初春(そこで肯定しちゃうの!?カミジョーさん!!ああ、御坂さんが真っ赤になって…) 美琴「…と、当麻」ウワメヅカイ 初春(み、御坂さん~!?そこで名前呼んじゃうの~!?) 佐天「ぬっふぇ!熱い、熱いですねー」ニヨニヨ 上条「…まー、相思相愛ってやつだったからな」ボソッ ――――――――― 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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 九月の狂想曲 常盤台中学の待機所に戻った御坂美琴は上条当麻と仲良く厳重注意を受けた。 美琴達に厳重注意をしたのは美琴の担当教諭で、厳重注意を受けた理由は『男性の腕に抱き上げられてその姿が世界中継されるなど常盤台の学生としてあるまじき行為』で、厳重注意の内容は『他の生徒の父兄が動揺するので以後こういった行動は慎むように』だった。 常盤台中学は世界有数のお嬢様学校として各地より優秀な子女を預かる立場であり、お嬢様学校であるが故に品性、品格にいたくこだわるのが校風なのだから美琴達が叱られても仕方のないことだった。 何一つ言い逃れのできない状況で上条が『大覇星祭ということで浮かれていた、美琴が「借り物」であったため調子に乗りすぎた』とひたすら頭を下げたため、お説教は『気をつけるように』との定型句で打ち切られた。 だが美琴としては、先ほどまでの甘い気分も上条からのサプライズも粉々に吹っ飛ばされてげんなり、という気分だ。 担当教諭の言い分は正しいし、美琴も肯定する部分はある。 それでも叱るなら自分一人にして欲しかったと美琴は思う。 調子に乗ったのは美琴で、上条は美琴のわがままを聞いただけなのだ。 そして何より気に食わなかったのは、上条の去り際に担当教諭がぽつりと『ふん、無能力者(レベル0)が』と呟いた事だ。 常盤台中学の入学条件は最低でも強能力者(レベル3)と決められている。 つまりそれ以下の能力者はどれだけ人格的に素晴らしかろうが相手にしない。 無能力者など、常盤台の教師からすれば超能力開発という時間割り(カリキュラム)から外れた落ちこぼれに過ぎないのだ。 美琴もかつては無能力者(というよりはスキルアウト)をそう見ていたところもあり、あまり強く言えた義理はないが、 それでも。 その小さな事が、頭にきた。 心の底から。 そのたった一言で上条を切り捨てる教師の態度が許せなかった。 教師も、常盤台中学も、あるいは統括理事会でさえも『知らない』妹達と美琴の問題を、ただ一人命をかけて救ってくれたのはほかならぬ上条なのだ。 無能力者だから切り捨てても良いのではない。無能力者は無能力なんかではない。 無能力者が蔑まされるようなスキルアウトに走るのは個々の事情であり、無能力者だからと十把一絡げに扱わないで欲しい。 相手が自分の学校の教師でなかったら、上条の何を知っているといるんだと美琴は即座に雷撃の槍を叩き込んでいたかもしれない。 そんな事をすればもっと大事になるし、何より必死に頭を下げてくれた上条の顔に泥を塗る。 常盤台中学の模範生としても、学園都市第三位の超電磁砲としても、それ以前に上条当麻の彼女として絶対に取ってはならない行動だった。 もしも自分が常盤台中学の生徒でなかったら、と美琴は思う。 これが例えば初春飾利や佐天涙子の通う柵川中学校だったらここまで騒ぎにはならなかったかもしれない。 あるいは、美琴がとある高校の一生徒だったなら。 こんなところで上条が日頃口にする『中学生と高校生』の歪んだ例を目の当たりにして、美琴はほんの少し唇を噛んだ。 とにかく、後で上条に謝ろう。 美琴はそう思って、そこで不意に視線の束を背中に感じた。 恐る恐る背後を振り返ると、 「……へ?」 常盤台中学の生徒達―――早い話が美琴のクラスメートや下級生が熱い視線で美琴を見つめ、ぐるりと取り囲んでいる。 彼女達は常盤台中学『学内』学生寮の生徒だった。 つまり、美琴を取り囲む少女達は正真正銘箱入り娘達であり、美琴とは違う方向性で筋金入りのお嬢様達だった。 「あ、あれ? みんな何か私に用? ああ、えっと見苦しいとこ見せちゃってごめんね? ……あれ? 違った?」 お嬢様集団が醸し出す異様な雰囲気にたじろいだ美琴がひとまずの謝罪を口にすると、 「御坂様!!」 「私、感動しました!」 「素敵ですわ御坂様!!」 少女達は一様に感動や興奮を口にする。 美琴は訳が分からず首を傾げて、 「……はい?」 「御坂様と殿方がお互いを想い合いかばい合うお姿に私達とても感激いたしました! これがアガペーなのですね!! 愛って素晴らしいですわ!!」 「あの。アガペーって……」 肉体的な愛を『エロス』と名付けるのに対し、精神的な愛は『アガペー』と呼ばれる。アガペーとは見返りを求めぬ無償の愛であり、もっとも尊ばれる愛の形とされる。 ようするに、美琴を取り囲む少女達にとって教師に叱られながらも互いをかばう美琴と上条の恋愛が『崇高(プラトニック)』なものと映り、そこがどうやら箱入りお嬢様のツボに入ったらしい。 「いや私達は別にエロスとかアガペーとかそう言った高尚なもんじゃなくて……」 包囲の輪を狭め詰め寄る少女達に両手をわたわたと振って否定する美琴。 「さすがは御坂様。恋愛一つを取っても私達の良きお手本ですわ!!」 おかしな方向に気炎を上げたお嬢様軍団は美琴の言葉に耳を貸さず闇雲に美琴を褒め称える。 暴走した少女達をを止める術などもはや存在しない。 心の中で『処置なし』のハンコを押すと、美琴は小さく口の中でため息をついてからつまんなさそうに、 「……くろこー?」 「はいはい、ごめんあそばせ。失礼いたしますの」 美琴の合図を待っていたらしい白井黒子が女の子達の間に割り込み、美琴の腕を掴んで空間移動(テレポート)を実行する。 美琴が輪の中心からブン!! という音と共に姿を消すと、 「……あ、あら? 御坂様はどちらに?」 「また白井さんですの? どうしてあの方はいつもいつも……」 「御坂様ったら謙遜されていらっしゃるのでしょう。その奥ゆかしさも素敵ですわ」 少女達は口々に感想や文句を述べて、三々五々に散っていく。 美琴は白井に腕を掴まれて、少女の集団からほんの少しだけ離れた場所へ空間移動した。 少女達も慎重に辺りを見回せば美琴がそれほど遠くに移動した訳ではないことに気づけたのだが、常盤台中学にただ一人しかいない空間移動能力者(テレポーター)の判断力を高く見積もりすぎていたのだった。 美琴は隣に立つ白井に向かって、 「いつもいつも悪いわね。でも、私が困ってるって分かってるならもう少し早くに助けてくれても良かったんじゃない?」 「あれもたまには良い薬になるんじゃないかと思いましたの」 白井は後ろ手に何かを持ったまましれっと嘯く。 言葉の意味が理解できない美琴は首を傾げて、 「薬? それってどういう意味よ?」 「お姉様はご自身が超能力者である事を意に介さず、いえ、軽んじられていらっしゃるのは以前からですけれども、今回のはいささか度が過ぎていらっしゃいません? るいじ……もとい、公衆の面前で殿方に抱きついたままテレビ中継など破廉恥極まりないですわよ? 他の生徒ならいざ知らず、お姉様があのようなことをされたら先生方だってさすがに黙っていませんし、お姉様のファンを自称する生徒達があっという間に感化されることは火を見るより明らかですの」 そこで白井は一度言葉を切って涼しい顔で、 「と、わたくしがお姉様に一言申し上げる前にすでに囲まれていらっしゃいましたし、自身の行いがどれほど周囲に影響を及ぼすかは身をもって実感されたことでしょうから、これ以上についてはわたくしも口を噤みますの」 「はいはーい、毎度毎度のお説教ありがとうございます。ご心配をおかけしましたわねー」 美琴は再びげっそりした表情を作る。 さっきは先生で今度は白井か。 常盤台の模範生と呼ばれる少女は一日に二度もガミガミ言われて少々辟易していた。 超能力者の称号は美琴が目指したハードルの先でも、そのおまけでついてきた賛辞など美琴の知るところではない。 自分はただの女の子だ。恋だってするし、彼氏と一緒にはしゃぎたい。 美琴はそこで『うーん』と両手を挙げて大きく伸びをする。 ここでぶつぶつ言っても仕方がない。 美琴は気持ちを切り替えるべく自分の顔を両手でペチペチ、と軽くはたく。 白井は表情を和らげた美琴に向かって、 「お姉様。そろそろお召し替えをお願いいたしますの」 「ああ、もうそんな時間なのね。にしてもさ、これって本当に常盤台(うち)の伝統なの?」 「さぁ? わたくしは存じませんけれども」 手にした学ランを美琴にうやうやしく差し出す。 超能力開発の名門・常盤台中学では生徒の間で奇妙な伝統が存在する、らしい。 誰が言いだしたものなのかは全く見当がつかないが、曰く、 『大覇星祭では「彼氏持ち」の三年生が監督を務めるものとする』 とされている。 監督、と言ってもメガホン片手に常盤台中学が参加する全競技に張り付くわけではない。 監督が必要とされる競技にのみ、選手ではない立場で参加するだけの事だ。 「おそらくは『女子校育ちなのに彼氏がいるだなんて許せない』と僻んだどこかの誰かが始めた風習ではないかと思いますの。大方『彼氏から学ラン借りてこい』などと挑発して晒し者にするつもりだったのでしょう」 「その発想はさすがに考え過ぎってもんじゃない?」 白井の推測にいちおうツッコむ美琴。 白井は空間移動で美琴の背後に回り込むと美琴の肩に学ランをかけながら、 「お姉様もお姉様ですの。わかぞ……もとい、衣替え前の殿方さんに頼まなくても、黒子に一言言ってくださればお姉様を美しく彩る衣装をご用意しましたのに」 「試しにアンタに頼んだら、紫の生地にラメ入りでしかも背中に『愛裸舞優』とか変な刺繍が入った長ラン持ってきたじゃない。それに、アンタの学ラン受け取ったらアンタが私の彼氏って事になるじゃないのよ」 「ぐへへへ、それはそれで好都合ですの」 「……、」 美琴は妄想を滾らせる白井を無視して羽織った学ランに袖を通す。 借りてきた学ランを着てみて改めて美琴は思う。 上条は極端にがっちりとした体型ではないが、やっぱり男だ。 美琴より肩幅が広く、リーチも長い。 美琴は袖をまくって丈を調節しながら、 「うわー、分かっていたけどぶかぶかだわこれ」 背後では白井が白いたすきを美琴の肩から背中に向かって通し、交差させてちょうちょ結びに整え、 次に美琴の腰に軽く手を添えて、細かいプリーツの入った白いスコートを瞬時に履かせ、 そこから白井が前に回って美琴の胸元を軽く上から下になぞると学ランのボタンが次々と留められて、 最後に美琴の両手を取って、瞬きする間に白い手袋をはめさせる。 「お姉様、準備整いましたの」 「ん。ありがと黒子」 美琴はその場でくるりと一回転して全体を確認する。 スコートのプリーツが美琴の動きに追随して軽く舞い上がり、ふわりと落ちた。 まぁこんなものかな、と納得して、 「でさ、悪いんだけどちょっと連れてって欲しいとこがあんのよ。空間移動頼むわね」 「……嫌な予感が。いえ、むしろ嫌な予感しかしないのですけれども念のためにお聞きしますの。……どちらまで?」 「確か、うちらの競技が始まる少し前に二人三脚をやるでしょ? そこの競技場に行って欲しいの」 白井は軽くため息をついてからジャージのポケットから自分の携帯電話を取りだす。 細いスリットから飛び出した『本体』の液晶画面に競技案内のパンフレットを表示させて競技場の場所を確認し、 「……確かそれは『高校二年生』が出場する『二人三脚』であって、わたくし達常盤台中学は誰一人出場しませんけれども?」 一応の嫌味を言ってみるが美琴はそれを聞き流し、 「だから『悪いわね』って言ってるでしょ?」 「……短い時間ではありますけれどもお姉様とデートができると思うことにしておきますの」 白井は不平たらたらの表情で携帯電話をポケットに押し込み、美琴の手を握って空間移動で人混みをすり抜けてゆく。 とある高校の二年生が出場する、二人三脚の会場へ向かって。 一方その頃、とある競技場にて。 もうすぐ『二人三脚』が始まるとあって、出場する生徒達は肩を組んで走り出す練習や足を出すタイミングを話し合ったりしている。 出番待ちの生徒達に囲まれて、上条はしゃがみ込むと二つの足首を縛り付ける紐を調節しながら、 「あのさ。何で俺と吹寄が組むことになってんの? 確か俺は土御門と組むはずじゃなかったっけ」 隣で両腕を組んだまま仏頂面の吹寄制理に向かって話しかける。 吹寄は足元の上条をジロリと睨み付け、 「仕方ないでしょう。土御門がいきなり捻挫したんだから」 「だったら俺は出場しなくても良かったのでは? 吹寄だって運営委員で忙しいのに何も嫌々俺と組まなくたって」 「あたしは楽しい大覇星祭を成功させたいだけよ。それに上条、貴様は自分が去年の大覇星祭における白組のA級戦犯だと言うことを忘れたの? 貴様が去年の分まで白組に貢献できるようこうして時間を割いてペアに名乗り出てあげたんだから、むしろあたしの優しさに感謝して欲しいわね」 「そんな優しさいらねーって……」 去年はとある事件の結果初日からボロボロになるわ不幸の連発で心身共にズタズタになるわで、両親が見に来ているにも関わらず上条には全く良いところがなかった。 それら一連の出来事は全て上条の予定を無視して始まったことであり、そこでA級戦犯と呼ばれることは甚だ心外なのだが、 「土御門は今日一日使い物にならないから、土御門が出るはずだった種目は全部貴様の名前で再エントリーしておいたわ。せいぜい頑張ることね」 想定外の宣告にうげっ!! と驚愕の呟きを漏らす上条。 もはや立ち上がる気になれず膝を抱えて、 「……不幸だ」 「何をもたもたしているの? そろそろ待機列に並ぶわよ」 「ちょ、ちょっと待て吹寄。二人三脚ってのは二人の息を合わせて同時に歩くから二人三脚なんであって痛い痛い痛いまだ立ち上がってない俺を引きずるなって!!」 吹寄は上条を顧みることなく、自らの左足に上条をくくりつけたままずんずんと歩きだす。 美琴は白井と共にとある競技場に到着した。 目的はもちろん、二人三脚に出場する前の上条を一目見て、できれば激励するためだ。 白井は能力者達の二人三脚を見物しようと詰めかけた大勢の観光客達に混じって、 「『恋は盲目』と申しますけれども……」 人混みと美琴の態度、両方に対してうんざりめいた呟きを漏らす。 学生用応援席に向かうにはこの人混みを抜けなければならないので少々やっかいだ。 美琴は白井の嘆きも意に介さず、 「良いでしょ別に。あ、いたいた! ……って、何よあれ」 美琴の視線のはるか先で、上条は髪の長い巨乳の女生徒と肩を組んで出番を待っていた。 「アイツ……二人三脚の相手は男だって言ってたくせに……」 「あらあらまぁまぁ、わたくしのような恋愛初心者の目から見てもあの二人なかなかお似合いですわね。お姉様には劣りますけれどもスタイルもなかなか……って、ひぃ!? お、お姉様、群衆の只中でバッチンバッチン言わせないで欲しいですの! 漏れてます、電撃が漏れてますわよ!! どうか周囲の皆様避難を、避難を!!」 「ううう……あの馬鹿、私というものがありながら……またしても巨乳……」 「おおお、お姉様しっかりしてくださいまし!! よ、良く見れば女の方は大したことないですし嫌々組んでいるようですから大方パートナーの方にアクシデントでもあったのでしょう。ですからどうかお姉様、気をお鎮めになってくださいまし!!」 「うううう……」 美琴はガルルルと凶暴な唸りを上げんばかりに上条をひたと見据え、微動だにしない。 その時、上条は首筋に冷ややかな視線を感じた。 何だかチリチリと焼け付くような痛みさえ覚える。 上条は右手で首をさすりながらキョロキョロと辺りを見回し、 「……ん? 何だ? 誰かが俺を睨んでるような……げえっ!? み、御坂?」 突き刺さるような視線の持ち主は美琴だった。 遠くにいてもはっきりと分かる、鬼気迫る形相。 しかも全身に青い火花をまとわりつかせている。 美琴の周囲の人々が美琴を遠巻きにしているのも見て取れる。 上条は嫌な脂汗をダラダラと背中にかきながら、 「な、何で? 何でアイツはあんなに怒ってんの???」 「ほら上条、列が動くわよ。貴様もとっとと歩きなさい」 吹寄は自分の左足で上条の右足を引きずり、上条の左肩に自分の左手を回す。 その瞬間。 ギィン!! と音が聞こえるくらい美琴の表情が険しくなる。 上条は血相を変えて、 「ぎぇ!! ま、まさかアイツ、二人三脚で俺が吹寄と組んだのが気に食わないのか?」 「さっきからゴチャゴチャうるさいわね。さっさと歩きなさい!!」 「ま、待って吹寄! お、俺は今二人三脚どころじゃなく命の危機が痛い痛い痛い二人三脚なんだから歩く足を合わせる努力を、努力を!!」 上条が何故慌てたり顔色を青くするのか理解できない吹寄は、屠殺場へ家畜を連れ出すように上条の肩に手を回し、 それに比例して美琴の体を包む火花が放電レベルへと変わっていく。 上条は吹寄の動作に合わせつつ後ろを振り返って、 「こ、これは浮気じゃない! 誤解だ!! 浮気じゃないからそんなバチバチ言わせるなお願い頼む怒らないでああもう不幸だ――――――――――――ッ!!」 上条の叫びは群衆のざわめきにかき消されて美琴の元には届かない。 御坂美琴は綱引きが行われるとある大学のグラウンドに移動した。 というより、感電を覚悟の上で白井が空間移動でここまで引っ張ってきたのだった。 「お、お姉様……殿方のことは脇に置いて気持ちを切り替えてくださいまし……わたくし達の綱引きも始まることですから」 美琴の足元でうずくまる白井の体操服はところどころがうっすらと焦げている。 「わ、わかってるわよ。こっちはこっちの競技に集中しないとね」 美琴は両腕を組んで肩を聳やかす。 そう言ってみたものの、上条が髪の長い(しかも巨乳の)女生徒と肩を組んで鼻の下を伸ばしていた(ように見える)のだから、美琴の心は落ち着かない。 (あの馬鹿、こっちの競技が終わったら絶対とっちめてやるんだから。さっきの件で謝るのもナシ!!) 鼻息も荒く、頭に巻いたハチマキを締め直す。 細い指先が刺繍の部分に触れて、 (私の名前が入ったハチマキ締めてんのに、何で他の女といちゃつけんのよ……) 唇を噛みもう一度ぎゅっ、とハチマキを固く締め、正面を見据える。 その視界の隅を見覚えのある人影が横切って行く。 (あれ? 土御門さん……と、もう一人は……) 海原光貴だった。 体操服の上から背中に『大覇星祭運営委員』のロゴが入った薄いパーカーを羽織っている。 海原は常盤台中学理事長の孫で、念動力(テレキネシス)の大能力者(レベル4)でもある。美琴はとある事情により海原が少々(というよりかなり)苦手なのだが、 (……めずらしい組み合わせよね。つか、あの二人に接点あったっけ?) 美琴は海原と何回か喋ったこともあるので、どこの学校に通っているかくらいは知っている。しかしその学校名は、上条や土御門と同じとある高校ではない。 土御門の妹、舞夏から聞いた話によると土御門は無能力者であり、そして上条の高校に大能力者はいない。 ほんの少し考え込んだくらいでは少年達の接点が思いつかない。 能力(レベル)の違う二人は親友、と言うよりも今から大仕事を控えた男の表情で何事か会話を交わし、肩を並べて人混みの中に消えてゆく。 (……ま、いっか。こっちもこれから大勝負だし) 美琴は遠くなる二人の後ろ姿を見送って、 「ほら黒子。いつまでそうしてるつもり? そろそろ行かないとホントに―――」 「げっへっへっへっ、ローアングルから見上げるお姉様の脚線美に黒子は夢中ですの。引き締まった足首、無駄な肉のついていないふくらはぎ、かわいらしい膝頭、そして白くとろけそうなほどに柔らかい太股。いっそこのまま頬擦りしてしまいたいくらい……。ああもう黒子のこの身は愛に焦がれ、そして心は千々に乱れてぇ―――ッ!」 「乱れてんのはアンタのトチ狂った脳波でしょ!!」 足元でトリップを始めた白井の脳天に力一杯グーをお見舞いする。 上条当麻は人混みをかき分けていた。 二人三脚が終わってからすぐ美琴の元に行こうと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかったのだ。 あの後何故か吹寄に用具の片付けを手伝うよう命令され、その次は転んでいる老婆を助けた。競技場へ向かう途中小さな女の子が泣いているのを見かけたので木の枝に引っかかっている風船を取りに行った。それを見ていたボーイズラブをたしなむらしいお兄さん方にナンパ(?)されたのだが、そちらは全力でお断りしておいた。 上条は近くの電光掲示板に表示された時間を見ながら、 「……この時間だとそろそろ三回戦に入ってる頃かな。綱引きって言っても常盤台中学は五本指の一角とか呼ばれてるらしいし、一回戦負けはさすがにありえねーだろ」 とあるグラウンドの入場門をくぐり、キョロキョロと辺りを見回す。 グラウンドでは無駄に広い面積を使い切ってコートが二〇面作られ、綱引きが行われている。 綱引きの正式なルールによると、一チームは八名構成でチームの総重量によって階級も決められるのだが、能力者達の運動会ではそんな階級制など用意されていない。 だが全くの無差別では能力差で勝敗が簡単に決してしまう。 ということで、学園都市の大覇星祭においては『一チーム最大二〇人構成』『センターラインを超えた一切の能力干渉を禁ずる』と言う特別ルールが用意されている。 つまり握ったロープ越しに相手をビリビリさせる、あるいは空間移動でロープを味方陣地に引き込んでしまうのは反則なのだ。 「しかし、アイツが出ないのに競技の応援って何すりゃいいんだ? 『頑張れ頑張れ常盤台』とか叫ぶのか? ……うわっ、想像しただけでも寒いぞ」 上条はほんの少しだけ身震いする。 「ともかく、常盤台中学がどこで対戦してるのか探しに行かねーとな。……あれ?」 少し離れた人混みの中で懐かしい人物を見つけた。 海原光貴。 美琴のことを臆面もなく『好き』と言ってのけたさわやか少年だった。 彼は馬鹿デカいレンズを取り付けた高価なデジタル一眼レフカメラを三脚に取り付け、競技場の方に向けている。 腕に『記録係』という腕章が巻かれているのが見えるので、卒業アルバムに載せるための写真を撮っているのかも知れない。 (でも待てよ。確か海原は二人いるんだったよな。アイツはどっちだ?) 美琴の事を『好き』と言った海原は『ニセモノ』の方で、本物は念動力の大能力者だ。 だが偽海原は少なくとも外見は本物海原にそっくりなので、アステカ魔術を使う少年が尻尾を掴ませない限り上条には見分けがつかないのだ。 (うーん……どっちでも良いか) などと上条が考えていると、人混みをかき分けて褐色の肌の少女が海原に近づき、背後から海原の耳を思い切り引っ張った。 洒落にならない痛みで耳を押さえ悲鳴を上げている海原と怒り顔で今度は頬をつねり上げる少女の雰囲気から、彼女と海原がごく親しい間柄というのは離れた位置でも見て取れる。 少女がいつか見たことのある偽海原と同じ肌の色を隠そうともしないところから、おそらく少女は偽海原の知り合いで、つまり殴られた方は偽海原らしい。 (アイツ、御坂の事が好きとか言っておいてちゃっかり可愛い女の子をキープしてんのかよ。……うらやましいぞ) 上条が見当違いの感想を胸の中で綴っていると、コートに少女達の一群が現れた。 襟刳りと胸元のV字、そして袖口が臙脂に彩られた競技用ユニフォームに身を包んだ『五本指の一角』常盤台中学の生徒達だった。 少女達を率いるのは、白いハチマキをきりりと巻いて、サイズの合わない学ランに白たすきを掛け、ひらひらな白いスコート姿に白手袋で固めた、一言でまとめると『旧世紀の応援団コスチュームを纏った』御坂美琴だ。 『外』とは科学技術で二、三〇年は先を行くと言われる学園都市で『中』にいる学生が前時代的な服装をしているという事は、いわゆる対抗文化(カウンターカルチャー)の模索であり発露であり、見方を変えて露骨な表現をすれば一種の晒し者(きゃくよせぱんだ)である。 だがそんな事には関係なく、観客達は可愛い女の子がコスプレして出てきたという事実にのみ盛り上がり、もはや勝敗の行方など誰一人気に掛けていないように見える。 美琴の登場で口々に騒ぎ立て手元の携帯電話のカメラを使って美琴を撮影する学生達に混じって、 「うわぁ……。俺の学ラン貸せって言うから何すんのかと思ったらこういう事だったのか」 美琴(アイツ)なら何を着ても似合うけどそれって若干時代錯誤気味じゃねえか? と上条は正直かつ場違いな感想を胸の奥にしまい込む。 そこで目の前の人混みが動き、中から頭に花飾りを乗せた小柄な女の子がはじき出された。 (まずい、このままだと転ぶぞ!!) 上条は咄嗟に両掌を前に突き出し、仰向けにひっくり返りそうになった女の子を支える。 初春飾利は今にも溺死しそうな思いで人混みをかき分けていた。 とあるグラウンドに用意された学生用応援席は何故か大賑わいで、試合が始まるのを今か今かと待ち構える人々でごった返していたからだ。 周りの人々の雰囲気で、試合がまだ始まってないというのは分かる。 しかし、悲しい事に初春の身長は一六〇センチに届かず、この押し合いへし合いの中では前の様子が全くもって見えない。体力もないので押しても押しても後ろへ押し返されてしまう。 右を見ても左を見ても人、人、人で埋め尽くされて、グラウンドの土さえ視界に入らない。 この時の初春は知らなかった。 たかが綱引きでこれだけ混雑する理由が御坂美琴のコスプレ紛いの衣装にあることを。 初春は友人である白井と、そして美琴の応援のため風紀委員の仕事を抜け出してここへやってきたのだが、 「こ……困りました……まさかこんなに混んでるなんて大誤算ですよ……。御坂さんに、白井さん……はあぁ……み……見えませぇん……」 後ろの方に向かってどんどん人波に押し流される。 人の流れに抵抗して前に進もうと努力するが、人数差はどうにもならない。 相撲の突っ張りを食らったみたいに体が仰向けに傾き、転びそうになったところで、 「よっ……と」 とん、と。誰かに押しとどめられた。 「大丈夫?」 「は、はい……すみま……えええええええ!?」 初春の両肩を掴んで支えてくれたのは、どこかで見た事のあるツンツン頭の少年だった。 少年は初春の悲鳴がかった奇声に慌てて、 「ちょ、ちょっとストップ! 叫ぶのストップ!! 俺は痴漢じゃねーから!! お願いだから風紀委員呼ばないで!!」 「あ、あわわわ、すみませんっ! そんなつもりじゃないんです!!」 風紀委員の仕事サボり真っ最中の初春は押しくらまんじゅう状態の真っ直中で頭をペコペコ下げる。 頭を上げて相手の顔を改めて確認すると、 (ど、どうしよう! この人、御坂さんのでこちゅー彼氏さんじゃないですか!!) 「? あの。俺の顔に何かついてます?」 「いいいいいいいえ! 目と鼻と口くらいしかついてません!!」 咄嗟に意味がよく分からない切り返しをしてしまう初春。 少年はポリポリと頭をかいて、 「君も綱引き見に来たの?」 「えーと、友達が出場してるんでその応援に」 「そっか。でもこれじゃ全然見えねーよな」 人でぎっしり埋まった学生用応援席を見回す。 「よし。前の方まで行くから俺についてきて」 ツンツン頭の少年は初春の手を掴み、 「はいごめんなさいよ、ちょっくらごめんなさいよ」 とか何とか言いながら人混みを無理矢理かき分け始めた。 初春は想定外の事態にやや呆然としながら、少年に手を引かれ先ほどよりはスムーズに前の方に向かって進んで行く。 (……彼氏さん、私達とプールで出会った事は覚えていないみたいですね) 初春からすれば少年は監視カメラに映っていたり美琴へのでこちゅー現場を生で見てしまったりの『知っている』状態だが、少年からすると『この子どこかで会ったっけ?』くらいの認識しかない。 初春はツンツン頭に巻かれた白いハチマキを何となしに見ながら、 (私が御坂さんの友達って言うのは知られない方が良いかも知れませんね……ぶほわっ!) 「ん? どうかしたのか?」 うっかり吹き出してしまった初春をツンツン頭の少年が振り返る。 「い、いえっ! 何でもありません!」 初春は空いてる手をわたわたと振って否定する。 初春飾利は見てしまった。 白い糸で施されているので良く見なければ気がつかないが、少年の頭に巻かれたハチマキには針裁きも鮮やかに『御坂美琴』と刺繍されている。 (こ、これって絶対御坂さんが刺繍して渡した奴ですよね! ぷぷぷ、御坂さんがこんなに独占欲の強い人だなんて初めて知りました!! こ、これは写真メール撮って佐天さんにも見せてあげないと!!) 初春はジャージのポケットから二つ折りの赤い携帯電話を取り出し、カメラモードに切り替える。 ハチマキの裾はゆらゆら揺れて焦点(フォーカス)がなかなか合わないが、ツンツン頭の少年が立ち止まった一瞬に初春はぐっとボタンを押し込んだ。 盗撮防止のシャッター音がやけに大きく感じられたが、少年は気づくことなく初春の手を掴んだまま前へ前へと進んでゆく。 初春は携帯の液晶画面をメール作成に切り替え、ポチポチと文字を打つと今撮ったばかりの証拠写真を添付し、友人である佐天涙子に送信した。 (こ、これは面白いものが撮れてしまいました!! あとで佐天さんと合流して、御坂さんを呼び出す算段を整えなくては!!) 初春の頭上で花飾りが揺れる。 溢れかえるほどの人混みの中で、花だけが初春の企みを見抜くようにゆらゆらと揺れる。 常盤台中学と対戦するのはどこかの高校らしく、美琴達より二回り以上の体格差を誇る男子生徒の集団だった。 不敵な笑みを浮かべる少年達に少女達は余裕の表情で対峙する。 学生達が持つ能力にも相性の善し悪しというものがある。そこをついてしまえば五本指の一角だろうが二本目だろうが恐れる必要はない。 おそらく少年達は相手校の能力者を統計立てて計算し、最適の反撃(カウンター)を放って勝ち上がったのだろう。 超能力開発の名門・常盤台中学と言えど所詮中身はただの女子中学生だ。 おそらく彼らはそう値踏みしているが、才媛軍団常盤台中学は『エース』と呼ばれる美琴をあえて監督に据えている。 つまり、美琴がいなくても勝てる布陣を敷いたと暗にアピールしているのだ。 本当は美琴の能力がこの競技に限りあまり役に立たないからなのだが、何故か相手が勝手に誤解して、前二つの試合は不戦勝となった。 美琴は少女達を集めて円陣を組むと、 「一回戦、二回戦は相手が棄権したからここが事実上の『お披露目』ってことになるけど、気を抜かずに全員の呼吸を合わせて決めるわよ。いい?」 「おーっほっほっほ。御坂さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。この婚后光子が一瞬で片をつけて差し上げましてよ」 「相変わらず空気を読まない方ですの……」 婚后の隣で肩を組んだ白井が眉をひそめる。 美琴はあはは、と苦笑いして、 「こ、婚后さんは私達の秘密兵器だから今回は温存ね」 作戦を確認すると少女達は一〇人二列に分かれ、自分の持ち場につく。 美琴は並んだ少女達からやや離れた場所に位置取り、右手を空に向かって伸ばす。対戦校の監督も自軍の近くに陣取って開始の合図を待つ。 白いラインを挟んで左右に散った少女達と少年達が向かい合い、一本のロープに手を掛けた。 その瞬間競技場がしん、と静まりかえる。 『Pick up the Rope』の合図で互いにロープを強く握りしめ、 『Take the Strain』の掛け声で全員が綱引きの体勢に入り、 『Steady』の声で静止し、 『Pull』の合図と同時に美琴が右手を振り下ろすと、 常盤台中学側の陣地がボゴン!! と何かを踏みつぶしたような音を立てて一〇センチほど陥没した。 砂煙がもうもうと舞い上がる中で、相手より『低い』位置に陣取った少女達は苦もなくロープを引っ張り、体格も体重もはるかに上の少年達は悲鳴を上げながら引かれるまま全員前方につんのめって倒れる。 大能力者でも集中力を乱されたら即座に対応できない。まさしく電撃作戦(ブリッツクリーク)だ。 判定係は二〇人の少年達が全員無残に地面に突っ伏したのを見届けて、 「勝者、常盤台中学!!」 判定の声に少女達は飛び上がって喜ぶわけでもなく、転んだ少年達に手を差し伸べて立たせ、淡々と能力で地面を元に戻す。 一撃必殺(ワンターン・キル)。 相手の出方も、能力の相性も一切関係なく、 それでいて能力を相手に直接使うことなく、 物理法則を逆手に取って常盤台中学は勝利した。 「身体能力強化を使うんじゃなく、重力操作系か念動力で足元えぐり取って人為的に高低差を作り出し、文字通り相手を『引きずり下ろした』のか。にしても複数の能力者がピタリと息を合わせて発動させるなんてさすが常盤台だな」 上条が感心していると、コートの中でキョロキョロと辺りを見回していた美琴と目が合う。観客達の中にいるであろう上条の姿を探していたらしい。 上条がおーい、と呼びかけながら手を振ると美琴の表情がぱっと明るくなり、それから何を思い出したのか不機嫌そうに目を細め、ぷいと横を向いた。 上条は振っていた手を引っ込めて、 「うげ……アイツまだ怒ってんのかよ」 何も悪い事はしていないのに、何でこうなるんだろう。 熱狂する観光客と応援の人々に混じってただ一人、 きっとこれから、 何も悪い事はしていないのに土下座しなくちゃいけないんだろうなぁ、と上条はぼんやり思うのだった。 綱引きの第四回戦以降は二日目に行われる。 と言う訳で、上条は手空きになった美琴をとある校庭の隅へ連れてきた。 人気のあまりない校庭にはフェンスに沿うように常緑樹が一定の間隔を開けて植えられている。 無造作に伸びた木の枝は盗撮対策の目隠し代わりだ。 そんな名目で手入れされたとある木の根元で上条は土下座の準備をしながら、 「……あの。これって冤罪だと思うんだけど」 「そうね。冤罪かも知れないけど、『彼女』の目の前でアンタが他の女の子にうつつを抜かしてたのは揺るがない事実でしょ」 学ランを着た美琴は腕組みをしたまま足元の上条を冷たく見つめる。 二人の姿はまるでどこかの女番長が気弱な男子高校生を揺すっている構図に見えなくもない。 上条は傲然と顔を上げて、 「どこをどう見ればそうなるんだよ!! 俺は二人三脚の準備をしてただけだろ!!」 「じゃあ何で二人三脚の相手が男だなんて嘘つく訳?」 「嘘なんかついてねーよ! 土御門が足を捻挫して今日一日動けないからって、運営委員やっててたまたま競技の割り当てがなかった吹寄がヘルプで入っただけだ!!」 「何言ってんのよ」 はぁ、と美琴はため息をつき、 「土御門さんなら元気よ? 綱引きの前に見かけたけど」 「はぁ?」 今度は上条が素っ頓狂な声を上げる番だった。 どういう事だ? 怪我したはずの土御門がピンピンして歩き回ってる? つまり土御門は嘘をついてでも自由を確保しなければならないという事だったのか? 土御門は自分自身を『嘘つき村の村民』と称して憚らない男だ。 だがその嘘はいつだって『使う必要があるから』ついている。 上条は地面に向かって顔を伏せたまま、 「考えろ。考えろ上条当麻。土御門が嘘をつくのはどんな時だ? 去年の大覇星祭で何があった? 今年はあんな事が起きないだなんて誰も保証してくれねえんだぞ?」 「こら、何をぶつぶつ言ってんの?」 美琴は去年、大覇星祭の裏で起きたとある事件の顛末を知らない。 だけど上条は知っている。 土御門がどんな気持ちで世界の裏を駆け抜け、小さな思いが積み重なって築かれた社会同士の摩擦を防ぐために日夜暗躍している事を知っている。 (きっと土御門は何かを抱えている。それなのに俺はこんなところでこんな事をしていて良いのか? 俺にだって何かできる事があるんじゃねえのか?) 「何を一人で考えこんでんのよ」 頭をコン、と小突かれた。 顔を上げると、その場にしゃがみ込んだ美琴が上条の顔をのぞき込んでいる。 美琴はやれやれ、と言いたげな表情を隠しもせずに、 「さっきから人がさんざんお説教してるって言うのに、アンタと来たら右から左に聞き流して、あまつさえ難しい顔して別の事考えてんだもの。怒鳴るだけ馬鹿みたいじゃない。ほら立って」 美琴は上条の手を引っ張って立たせると、 「その様子じゃあの巨乳女の事もきれいさっぱり頭の中から消えてるみたいだし、二人三脚の事はもう良いわ」 「え? 巨乳が何だって?」 「なっ、何でもないわよ!! つかそんなとこだけ反応すんなっ!! ……それより、さっき何を考えてたの?」 上条の前に立ち、小首を傾げてみせる。 ぐい、と顔を近づけて声をひそめ、 「……もしかして、何かまずい事態でも起きてるとか?」 「いや……そうじゃねえ」 上条は首を横に振る。 懸念を美琴の前で隠し通すのは得策ではない。 むしろ話しておけば少なくとも美琴は納得するし、そこから先は自分の意志で考えるだろう。 「単なる俺の思い過ごしかもしんねーし、本当に何かが起きてるなら否応なしに巻き込まれてると思うんだ」 俺って不幸体質だし、と上条が付け加えた言葉に重なってプツン、と言う奇妙な音が響き、続けてパサリ、と何かが滑り落ちる音がした。 どうも腰の辺りがスースーするような気がして上条は音のする方向、つまり自分の足元を見て、 美琴が上条の動きにつられて下を向く。 上条の足首付近に青色の短パンが引っかかっている。 「……ん? これ誰の……?」 「……、」 上条の足元に落ちた短パンから視線をやや上にずらした美琴の動きがビキン!! と凍り付く。 ガバッ、と自分の顔を両手で覆う美琴の視線の先を目で追った上条は、 「……げっ!? これ俺の……って事は御坂! 馬鹿こっち見んな!!」 咄嗟に両手を使って下着を美琴の視界から覆い隠す。 そこへ、 「今わたくしのお姉様レーダーは感度最大! 地球の裏側でもお姉様を捜し出せますの!! 感じる、感じますわ!! こちらにお姉様がいらっしゃるのですわね!! 待っててくださいお姉様今すぐ黒子がお迎えに―――ッ?」 空間移動を駆使して美琴を探していた白井が下着丸出しの少年と何とも説明しにくいポーズで固まっている少女を見つけ、 その場に着地すると羽織っていた常盤台中学指定ジャージから空間移動で金属矢を取り出し、 「風紀委員(ジャッジメント)ですの! そこの類人猿、婦女暴行並びに猥褻物陳列罪その他諸々の罪で即刻死刑ですの!! 粗末な物体ごとその体をぶつ切りにして差し上げますからそこから一歩も動くなァああああああああっ!!」 「ちょっと待て白井! お前風紀委員だろうが!! いきなり俺を殺しにかかるんじゃねえ!! そもそも粗末な物体って何の事だ!!」 理不尽な要求に向かって叫ぶ事で抵抗する上条。 しかし足元には脱げた短パン、両手は下着を隠しているのでカッコつかない事この上ない。 「問答無用ですの! お姉様の貞操を奪った罪は万死を持ってしても償いきれませんの!!」 「ちょ、黒子!! いくら人通りがないからって貞操とか大きな声で言うな!!」 美琴は顔を真っ赤にして怒鳴り返すが彼女も彼女で両手で顔を覆いながら指の隙間からチラチラ見ているので説得力は皆無である。 次の瞬間、白井黒子と言う少女を構成する顔のパーツが劇画っぽい表情に変わる。 「はっ!? まさかこの状況はお姉様自ら招いた事だとおっしゃいますの? ……よもやお姉様が殿方と屋外で致してしまうほど飢えていらっしゃっただなんて!! 一言黒子に相談してくださればお姉様の欲求不満などこのゴッドハンドでペギュ」 「それ以上喋るんじゃないわよ!!」 美琴が白井の脳天に向かって垂直にずびし、とチョップを浴びせる。 上条は両手で脱げた短パンを腰まで引き上げながらがっくりと肩を落とし、 「……不幸だ。夕べ洗濯した時にゴム紐が切れかけてたのかな」 シリアスな雰囲気が台無しである。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・ 2.初めて 「……朝?」 突如閉じた瞼から光が入ってきた事を感じて目を覚ます。 視界は数秒ぼやけていたが、自分のいる場所が常盤台の寮であると分かる。 「黒子……?」 ルームメイトの名前を呼んでみるが返事はない。 どうやら出かけてしまったようで、ハンガーにも制服がかけられていない。 美琴は風紀委員(ジャッジメント)の仕事でもあるのだろうと判断してベッドから体を起こす。 「……昨日……は?」 ふと、自分が昨日の自分を振り返る。 だが、それと同時に頬が一気に熱くなり、またベッドに倒れこんでしまった。 (アイツに……だ、抱きしめられた!!?) 昨日の夜、美琴は未来からやってきたと言う三人の子供たち出会った。 そして、その帰り道、美琴が常盤台の辺りまで来たときに上条に抱きしめられたのだ。 もっとも、美琴は告白まがいの言葉まで言っているがそれを凌ぐ(正確には忘れさせる)破壊力があった。 「うぁ、ああああああああああああああああああ!!」 ルームメイトがいないのをいい事に叫んでしまい ベッドの端から端までを落ちない程度に寝返りを打つ。 (ど、どうしよう、抱きしめらた……!きょ、今日はどんな顔で会えばいいのよ!!) いままで鈍感で好意を持っていたのに気づかないような男性にいきなり抱きしめられた。 初恋の相手であって、しかもその男性が自分の理性を壊すほどの人ならば レベル5と言っても純情な乙女である美琴には今日顔を合わせるのすら超えられないくらいの壁だった。 と、悶々しているところで突然「ゲコゲコゲコ」とカエルの鳴き声が耳に響いた。 「ひゃっ!」 いつも聞いているはずの音なのに普段出ないような声が出てしまう。 恐る恐るカエルの鳴き声の着信音がするゲコ太の携帯を手に取り誰からの連絡か確認する。 「ア、ア、ア、アイツからメール……?」 それは彼女が悶々としている原因の少年、上条当麻からだった。 のろのろとメールの受信画面から振り分けボックスの『馬鹿』の項目を選んで新着のメールを開いた。 「さて、とただいまからお食事を作ろうと思うのですがいかがいたしましょう、姫?」 上条当麻はメールを送り終えると、真っ白な修道服に身を包んだ少女に問いかけた。 時刻は十一時をさしていて、昼食にはまだ少しはやい位なのだが、今日は昼から予定があるので早めに作ったのだ。 だが、肝心の修道服の少女は、部屋の中央で荷造りを始めていた。 「あの~インデックスさん?何故荷造りを始めてるんでせう?」 その様子が非常に恐ろしくて、声をかけてみる。 インデックスと呼ばれた少女はゆっくりと振り返ると 「とーま、昨日言ったよね?」 なんだか、異常に目が輝いていた。 「昨日?なんか言ってたっけ?」 上条には覚えがなかった、そもそも人生でベスト10に入るくらいの大事件が起きた次の日なので 少女が荷造りを始める理由は上書き保存されてしまっている。 「今日からこもえとあいさの三人で食べ放題!飲み放題!一週間春の幸祭りにいくんだよ!」 今にも飛んでいきそうな勢いの元気なのは食い放題が理由だったようだ。 「あ……そー、いえばー」 そういえば、一週間くらい前から毎日その事を言われていた気がした。 上条の担任である月詠小萌が彼女の専攻である発火能力(パイロキネシス)の研究が最近評価され 証をとったらしく、その副賞に一週間『外』への旅行券をもらったと言う話だったはずだ。 「まー、警備員(アンチスキル)とかに捕まらないようにな」 「とーま!私のどこが怪しいって言うの!?」 「だああああああああ!わかった、わかった!早く行かないと置いてかれるぞ!?」 服装からですが!?とツッコミを入れてしまいそうだったが なんとか我慢して、荷造りを終えたインデックスを送り出す。 インデックスは最後まで怒っていた様子で上条を睨んでいたが 寮から出て小萌先生の住むアパートへ向かう頃には上条のほうを向いて笑顔で手まで振っていた。 (……タイミングいいっつーか、問題はこれで消えたな) ふぅ、と息を吐き、閉めた玄関のドアにもたれる。 問題、と言うのはあの三人とメールを送った人物の美琴の事だった。 (インデックスには悪いけど、仕方ないよなぁ) 正直、インデックスにはかなり不快な思いをさせるかもしれないし 少しの間だけでも離れさせる方法は一夜では思いつかなかったので上条はかなり安心していた。 メールの内容は必ずインデックスが怒るものだったからだ。 (御坂を家に入れるなんていったら多分頭を噛み砕かれるだろうからなぁ) あの三人も来る予定なので、いつもの三倍噛まれるのは必至だ。 もう一度、ふぅ、と息を吐くとこれから家に招く四人を思い 同時にインデックスに心の中で謝りながら昼食も作らず 四人を迎えにいく準備を始めた。 時刻は昼の一時をさす頃、上条は待ち合わせの場所、昨日美琴が能力を暴走させた公園まで来ていた。 ただ、彼の足取りは重い、待ち合わせに自販機の前を指定したのはいいが 公園に向かう途中に昨日自分が何をしたかを思い出してしまったのだ。 (会うのはいいけど会って何話せばいいんだ!?御坂だけが来てたらかなり気まずいぞ!?) 会う約束をしてしまったのはもう仕方ない事だが、 上条は先にあの三人組がいることを祈りつつ公園内に入った。 「げっ!?」 嫌な予感は的中した。 御坂美琴が自販機の前でキョロキョロと忙しなく辺りを見回していた。 待ち合わせの時間まで後三十分近く時間があるにもかかわらず、だ。 (上条も気持ちが逸ってしまい、かなり早く来てしまったのだが) (まだ、気づいてないよな?) 美琴の視界に入らないように後ずさりをして公園の出口へ向かう。 やっぱり三十分後にしよう、そうしようと自分を言い聞かせながら 公園出口直前まで来たところで (……猫?) 公園に入った直後には気づかなかったのだが 美琴が辺りを見回しているのは待ち人を探しているのではなく 人が近くにいないかを確認していたようだ。 上条は悲しい気持ちがしないでもないが、美琴に見つからないように木の陰に隠れた。 (なんか変態さんみたいだな……) 周りに人がいたら上条は確実に風紀委員か警備員を呼ばれお縄についていただろうが 幸い人のくる様子はなかった。 美琴は猫に手を伸ばすが、猫のほうが怯えてしまっていて美琴と距離をとる その開いた距離を美琴が詰めるが猫はやはりその分だけ距離をとってしまう。 (な、なんなんだ、あの可愛い生物は!?ほ、ホントに御坂か!?) 必死に猫を手で招いているが、猫は逡巡しながらも近寄ろうとはしない。 その構図がなんともいえないもどかしさと可愛らしさを演出していて 上条の本能を刺激していた。 (ち、近寄りたいが、近寄れな……って、あれ?) さっきまで寄りかかっていた木がなくなっていた。 上条の寄りかかっていた木は細い木だったのだが、かなり老木だったのか 見るも無残な形で見事に近くにあった気にもたれて折れていた。 「うっそ、だろ?ぎゃあああああああああああああ!」 バランスを保とうとしたところで、柵に足を引っ掛け 盛大に上条はこけてしまった。 「何してんのよ……アンタは!」 どうやら、お嬢様に見つかってしまったようだ。 目の前には、ツンツン頭の少年、上条当麻が地面に倒れている。 待ち合わせには後10分くらい余裕があるだろうか、美琴は上条が時間より早く来ていたことに驚いていた。 「ちょっと、へ、返事しなさいよ!」 上条は数秒何かに悩んでいたのか倒れこんだままだったが やれやれ、と呟きながらゆっくりと立ち上がった。 「えーっと、猫とコミュニケーションをとろうとして逃げられる健気な美琴タンを観察していました」 「――――な!?あ、あんた!始めっから!?」 人が近づいて来たら、彼女の電磁センサーが知らせるはずだが 猫に集中しすぎてしまったようだ。 (しかも、コイツいま私のこと名前で――――!?) 上条がいつからいたのか、名前で呼ばれたこと、恥ずかしい姿を見られたこと、と 様々な事柄が美琴の頭をぐるぐると回っていて、考えがまとまらない。 「おーい、御坂……?」 「ひゃっ!ひゃい!?」 ビクッ!と体を硬直させて返事をしてしまった。 上条は先ほどから様子のおかしい美琴を心配してか彼女に近づいていく。 「ん……!?」 「顔赤いけど、熱はないみたいだな」 額に手を当てられた。 右手で美琴の額を押さえて、あいた左手で自分の額も押さえて熱を測っている。 それだけならよかったのだが。 (ち、近い!?何でそんな近くでやんのよ!?) 少し体を伸ばせば、キスが出来てしまうくらい近い距離だった。 ただ、上条はそんなことには全く気づかない。 「大丈夫か?」 呑気に聞いてくる。 「ぅ……うん、だい、じょうぶ」 内心全く持って大丈夫ではなかったが、何とか理性を保って答える。 「あ……」 答えると同時に額から手が離れた。 上条の手の体温も離れていってしまい、妙に切なさが残った。 「……もう少しであいつらも来るかな?」 上条が公園にある時計を一瞥してそんなことを言った。 美琴も時計を見る。時刻は1時半を指していた。 「そういえば、今日は何処に行くの?」 待ち合わせの時間になったはいいが、美琴は肝心なことを聞いていなかった。 メールにも『一時半に公園に来てくれ』としか書かれておらず 美琴も期待や想像(妄想?)をするだけで聞こうとはしなかったのだ。 「ん?言ってなかったっけ」 「言ってないわよ」 上条は何故か照れたようにポリポリと頬を掻く。 顔も少しだけ赤かったが、美琴は気づかなかった。 「……俺んち」 ……その時、美琴の中で時間が止まった。 彼女の後ろから「あー、いたいた」とか「遅れてわりぃ」とか「パパーママー」と言う 声が聞こえた気がしたが、耳に全く入って来なかった。 「おぉ!ここが親父の住んでいた学生寮か!」 一人はしゃいだ声を出しているのは上条当麻の一人息子(の予定)の当瑠だ。 その声があまりにも大きかったので、部屋から住人が顔を出すのではないかと 上条は内心ひやひやしたが、どうやら寮内には隣人の土御門を含め留守にしているようだ。 こんな偶然があるのだろうか?と疑問に思ってしまったが考えていても仕方ない、と判断し いつ大きな声を出すか分からない少年を押しながら自分の部屋に入った。 「お邪魔しまーす」 鍵を開けて一番初めに入ってきたのは美詠だ。 その次に当瑠がはいったのだが、美琴と美春が中々入ってこなかった。 「どうした?」 美琴は美春と手を繋いだまま俯いていた。 美春は美琴と上条を何度も見ながら「はやくはいろー」と言っているが 美琴が入ってくる気配はない。 「……ほら、入れよ」 美琴の腕を持って引っ張る。 「あ、ちょっと!!?」 彼女は驚いた様子だが、気にせずに玄関を上がらせて 五人では少々狭い居間に押し込む。 「一応、鍵は閉めて、と」 隣人の土御門はまるで自分の部屋かのようにドアを開けてくるので 用心してドアの鍵を閉める。 そして、居間に行き、美春を抱いて座っている美琴の隣に腰を下ろした。 「で?お前ら聞かせたいことがあるっていってたよな?」 「あぁ、やっぱそのことか」 当瑠は予想していたのか、別段表情を変えなかった。 上条は昨日の夜大まかに説明を受けたのは美春の能力くらいだったので 当瑠や美詠の未来の話には興味があった。 「聞きたい?」 「……聞きたい」 答えたのは上条ではなく美琴だった。 今まで黙っていたので上条は少し驚いた。 「じゃぁさ、まずこの写真見てよ」 写真を取り出したのは美詠だ。 上条と美琴は机の上に出されたそれを食い入るように見た。 写っているのは、髪の毛をツンツンさせた三十代くらいの男性と 茶色の髪で男性と同じくらいの年の女性が、笑っている写真だ。 ……どこをどうみても上条と美琴だが、今のような幼さはなく 成熟した大人の印象はしっかりとあった。 上条は写真を見ている時、隣にいる美琴をチラリと見て 写真の女性の顔を確認したり、美琴の体のほうに目線がいってしまい ドキリ、としてしまったが、美琴の方はいつになく真剣な目で写真を見ていた。 「まずは、これで二人が結ばれるって事は信じてくれたかな?」 美詠がそんなことを言ってきた。 上条と美琴は目が合ってしまい顔を赤くしてそらし、頷いた。 「ま、そのことを踏まえたうえで、これから話すことを聞いてくれよ」 当瑠がニヤニヤしながら言ってきた。 上条はその表情に得体の知れない不安を感じた。 「お、おい……なんか嫌な予感がするんだが!」 「じゃっ、二人がどれだけいちゃいちゃしてるか言っちゃいますかねー」 「いぇーい!美春もききたーい!」 やけにテンションをあげてる息子と娘。 上条の不安はどうやらまた的中してしまったようだ。 美琴のほうを見ると彼女もまた上条と同じ気持ちで不安そうな表情をしていた。 「じゃー、まず朝起きた時に……」 「「や、やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」」 その後、たっぷり三~四時間くらいかけて拷問のような地獄が続いたのは言うまでもないだろう。 戦いは終ったと御坂美琴は確信した。 悪魔の口から悪夢のような言葉の数々が途絶えたからだ。 (私は、長く苦しい戦いに勝った!) 悪魔は今までにないほどに強大で凶悪だった。 しかし、美琴は負けるわけにはいかなかった、負ければ自分が自分でいられなくなるのだ。 そして彼女は勝利した、勝利をかみ締めると共に隣で同じように戦った戦友を見た。 「う、うだー」 戦友は机に突っ伏した状態でうな垂れていた。 疲労は彼女以上にあるのかもしれない。 思えば美琴自身よりも隣の戦友、上条当麻のほうが悪魔からの攻撃を多く受けていたような気がする。 「ちょっと・・・・・・アンタ大丈夫?」 突っ伏したままぶつぶつと色々呟いているので流石に心配になったが 彼の体を触るのにはためらいを感じた。 悪魔の攻撃は予想以上に自分を奥手にさせてしまったらしい。 「御坂さん、上条さんはもうダメかもわからんです」 今ならアニメやマンガで使われる『チーン』と言う擬音も当てはまるのではないかと美琴は思った。 「いやー、予想以上のダメージですなー」 悪魔の一人目、当瑠は達成感に満ちた顔だ。 戦友の上条に似ているせいなのかイラッときたが笑っている顔も似ているので直視は出来ない。 「お母さんも顔真っ赤にしちゃって、可愛いな~」 悪魔二人目、美詠も当瑠ぐらいに笑顔になっている 上条と美琴の反応に満足した様子だ。 「ママ、かわいいー」 ……小悪魔も混じっているようだ。 「あ、あんた達覚えてなさいよ」 馬鹿にされたのが悔しくて、負け犬かそこらのかませ的台詞を吐いて もう、今ここで焼っちまうか、と思い直すが。 ぐぅ~。 腹減りアピールをしてきた人物がいた。 「・・・・・・アンタ、お腹空いたの?」 その人物は上条だった。 「か、上条さんは昼食をとっていないのですよ」 攻撃されていた時とは別の疲れを見せる上条。 「どうして、食べなかったのよ?時間ならあったでしょ?」 「うぅ、そ、それはですね・・・・・・」 食べなかった原因は美琴自身にもあるのだが 美琴はそれには気づかないし、彼女は何も悪くないが。 「・・・・・・じゃぁ、ご飯にする?」 ぱぁっと上条の表情が明るくなっていき、突然立ち上がった。 「おぉ!おい、お前ら準備しろ!飯食いに行くぞ!」 上条は外食に行く気満々らしい。大笑いしている三人組に声をかけ 意気揚々と言う言葉がぴったりの調子でサイフを手に取ると玄関へ一目散へ駆け出した。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」 上条に続いていく当瑠と美春を引き止め、玄関で靴を履こうとしている上条を 掴んで元いた居間に引き摺り戻す。 「な、なんでせうか?早く行きたいのですが」 「誰が外食って言ったのよ!!馬鹿!」 美琴は自分の体温が上がっていくのを感じた。 きっと頬は真っ赤になっていて、目も泳いでいるのだろうと考える。 「他に何があるんだよ?」 「このクソ鈍感野郎が気づけよ馬鹿が」 罵ったのは美琴ではない、美詠だった。 美琴は驚いて美詠をみる。 美詠に罵られた上条は更にわからない、と言う顔をした。 「ほら、お母さん!言ってやって下さい!」 「え?あ・・・・・・う、ん」 逆に話を振られて美琴はどもってしまった。 正直思い返してみると外食のほうがいいのではないかと思ってしまった。 美琴が思い描いた光景はまさしく家族や夫婦のそれだからだ。 「わ、私が作るわよ、夕飯!」 対する上条の返事は 「へ?」 間抜けなものだった。 「はー、腹減った・・・・・・」 上条当麻はスーパーの袋を片手にもう何度目になるか分からない呟きを洩らした。 夕食を作ると言った美琴だが、上条の家の冷蔵庫に何もないのを確認して買い物を頼んだ。 お腹空いてるんでむりですといったら問答無用で電撃が飛んできたので音速にも勝るような速度で土下座をして家を転がり出たのだ。 「・・・・・・あと少しなんだから我慢したら?」 家を出てきたときについてきて隣を歩いているのは美詠だ。 先ほどから同じ事ばかりつぶやいている上条にそろそろ呆れている表情で ダラダラと歩く上条と歩調を合わせている。 「そんなことを言われましても家についても一時間ぐらいかかるだろ? 上条さんはもう限界が近いのでそんなに待てないのですよ」 育ち盛りの男子高校生なめんな!と胸を張る上条。 「・・・・・・はぁ、ホンッとにアイツそっくりね」 上条の態度に溜息をつく美詠。 だが、上条は気になる事があったのかキョトンとした顔になると 「ん?アイツって、誰だ?」 自分と似ている人物となると当瑠ぐらいしかいなのだが 上条にはそっくりの人物像がうまく浮かんでこなかった。 「な、なんでもない!さ、早く行きましょ」 美詠は何故か顔を真っ赤にして腕を振り回し始める その行動に「?」となる上条だったが 「まぁいいや・・・・・・」 そう言ってそれ以上追求をしようとはしなかった。 少しだけ沈黙する二人。 先ほどよりも少し速くなった歩調だがまた上条が口を開いた。 「・・・・・・そういやさ、疑問に思ってんだけど」 「・・・・・・何?」 「いや、美春の能力は説明されたけど、当瑠や美詠の能力は聞いてなかったなって思って」 出会ったときから聞きたかった事を聞く上条。 「・・・・・・知りたいの?」 「一応は」 ふぅん、と美詠は呟いたが、その後何もしゃべらずに周りを見回すだけで 話の続きをしようとしない。 「話してくんないの?」 「まぁ、いいんだけどね・・・・・・とと、信号赤か」 二人が通る目の前で信号が切り替わり、横断歩道前でピタリと止まる二人。 美詠の素振りは説明をしたくないと言うより、獲物を探すような顔つきだった。 「実際に見せたほうが分かりやすい能力なのか?」 「まぁね、演算の説明とかしても分かんないでしょ?」 「うっ――――!」 痛いところ突かれる上条。 常盤台と言っても年下の女の子に説明されるのは物凄く恥ずかしい上に 美詠の言うとおり物理演算とかベクトルの理論とかを大まかにで説明されても 理解できる気がしなかった。 「はぁ、じゃぁ、見せてくれよ」 「んー、でもなぁ・・・・・・」 「待ちなさい!!」 誰かの慌てたような声が迷っている美詠と上条の後ろでする。 何だと思って振り返ると美春と同じくらいの年の男の子が上条の隣を走りぬける瞬間だった。 「な!?」 信号は赤のままだ、そして一台の大型のトラックが少年に向かって走ってきている。 トラックは無人のAI操作のトラックなのか止まる気配はない。 距離がどの程度かは分からないがトラックはかなりの速度で少年との距離は詰めている。 「くそ!」 駆け出したのは上条だ。 走ってきた勢いのまま少年を突き飛ばす。 飛んだ距離は大した事ないがトラックの幅を考えれば十分に少年は無事になる。 あくまで少年だけだが。 トラックとの距離は人間の反応速度ではとても避けれないものとなっている。 (・・・・・・俺が死んだら当瑠たちはどうなるんだろうな) ふと、そんな事を思ったがトラックは上条を轢かず 突然不自然に傾き吹き飛んだ。 「・・・・・・!!」 何トンあるか分からないトラックは誰もいない歩道に吹き飛び ひしゃげた形でそこに鎮座した。 「私の能力ってさ、ちょろっと特殊なのよね」 息を呑み、トラックが吹き飛んだ方向とは逆のほうに顔を向ける。 「空力使い≪エアロハンド≫じゃないわよ」 上条の近くまで来て手を握り、立ちあがらす。 「能力名は『吸収構築』≪ドレイン≫、吸収したものを私のイメージした物質として作り直す能力 今のは空気中の風を吸収して固形の『砲弾』に再構築してぶっ放したのよ」 騒ぎを聞きつけて人が集まり始める。 警備員を呼ぶためか、吹っ飛んだトラックの状態を撮影するためか携帯を取り出している人もいるが それを気にすることなく美詠は話を続ける。 「私は未来の学園都市に四人しかいないレベル5≪超能力者≫その第三位」 そこで一度息を吸う。 「創造者≪クリエイター≫、そう呼ぶ人もいるわね」 どこかの誰かと同じ場所に君臨するその少女はニヤリと笑った。 「それで?警備員にアンタは捕まって、こんなに遅くなったと・・・・・・」 空はすっかり黒く染まった午後八時。 上条当麻は玄関口で仁王立ちしている御坂美琴にお説教を受けていた。 お説教とは言っても上条自身は何も悪くないし、むしろ人助けをして感謝される立場だ。 だが、現実は厳しい。 上条は警備員に犯罪者扱いされ、美詠にはいつの間にか逃げられていた。 そのせいで、説明をされ、一時間たってやっと解放されたのだった。 「外の警備員、内のビリビリ、不幸だ・・・・・・」 「ちょっと!何、溜息ついてんのよ!」 美琴の頭から青白い光が発生する。 上条はいつも通りの美琴の反応に本日二度目の音速土下座を発動させた。 「ちょ、ちょっと待て!電撃は勘弁してくれ!多分今の上条さんには貴方様の電撃に反応できません!」 「・・・・・・じゃぁ、今日は私がアンタに初めて勝つ記念日になるわね」 青白い光が更に強くなり、美琴の髪の毛が逆立ち上条の視界を照らす。 「あー!上条さんは早く御坂さんのご飯が食べたいです!」 空腹状態であることと、美琴が食事を作ってくれると言う話を思い出して 咄嗟に話題を変えようとわざと大声で言う。 「・・・・・・え?」 今にも爆発しそうだった美琴の青白い光が休息に止まっていき 逆立った髪の毛はパタリと倒れた。 「・・・・・・あ、アンタ、そんなに楽しみだったの?」 なんだか急に大人しくなってもじもじと指をからませる美琴。 端から見れば可愛らしい動きだ、しかし上条には命がかかっている これはチャンスだと思って一気に畳み掛けた。 「あ、あぁ!上条さんは御坂さんの作ってくれる食事が楽しみで楽しみで仕方ないんですよ いやー、一体どんな料理を作るのかな~、早く食べたいなぁ~」 「そ、そう・・・・・・そっか・・・・・・じゃ、じゃぁ作るから、あの子達と待ってて」 フラフラとしながら狭い学生寮のキッチンに美琴は入っていった。 (た、助かった・・・・・・?) 安心と疲れでしばらくはそこから動けなかった。 「~~~♪」 キッチンから美琴の鼻歌が聞こえてくる。 常盤台は中学卒業後には社会に適応できる人材を作るのを目標としている その為、能力開発だけでなく学習のレベルも大学生クラスの内容となっているので 社会人になって一人暮らしをする生徒たちは料理を学ぶ調理実習をするだろう。 (その実習内容が庶民的な料理であるかは謎だが) 食事が寮の食堂で取れるお嬢様学校とはいっても、それ以前に女子校である常盤台で料理が出来そうないのは 天然の箱入り娘くらいではないか?そう考えた上条だが。 (・・・・・・普段から作らないから怖いんだよなぁ) 要は経験値が貯まっているかどうかだった。 授業で習ったことを一人で実践に移すにはそれなりの積み重ねが必要だし 今はそれなりに料理が出来る上条自身も料理を作り始めたときは失敗の連続で 食材を無駄にしてゲテモノを作ってしまったこともあった。 つまり上条が言いたいのは。 (レベル一のまま装備も整えずダンジョンに入るのと同じなんだよな) ゲームに置き換えればそういうことである。 ちょっぴり自分が無事に生き残れるか心配になった上条だった。 「パパーどうしたの?げんきがないよ?」 「ん?」 考え事をしているといつの間に上条の懐に入り込んだのか美春が顔色を伺っていた。 「ちょっと考え事してただけだ」 そう言って、頭を撫でてやると美春は嬉しそうに笑って満足げにしている。 「美春は機嫌がいいな、いい事でもあったのか?」 「ママのつくったごはんたべるのひさしぶりだもん!」 わーい、と美春が両手を挙げて喜びを表現する しかし、そこでふと疑問が浮かんだ。 「久しぶりって・・・・・・御坂の奴何してんだ?育児放棄かよ」 多少不穏な未来を浮かべてしまう上条。 「違う違う、親父の仕事手伝ってんだよ」 美詠とテレビを見ていた当瑠が振り返って言う。 「手伝いって・・・・・・未来の俺一体どんな仕事してんだ? つか御坂と同じ仕事してんのかよ?」 卒業してエリート街道を突っ走る常盤台のお嬢様と 赤点量産で落ちこぼれの不良学生が同じ職場とはどういう事だ思うが そういうこともあるだろうとあまり深く考えない事にした。 「・・・・・・まぁね、職場の話はしないけど、飯のほうは美詠が時々つくってくれるし」 何の気なしに当瑠が言うが、隣でお茶を飲んでいた美詠がブーッ!とお茶を噴出した。 もちろん、当瑠に向かってだが。 「なにすんだテメェ!」 顔がびちゃびちゃになり怒りを露にする当瑠。 「ア、アンタが変な事言うからでしょうが!」 「何が変なんだよ!アホかお前は!」 ぎゃぁぎゃぁと叫びあいながら喧嘩をする二人。 「美詠は常盤台の学生なんだろ?寮生なのに大変じゃないのか?」 上条に疑問をぶつけられて、取っ組み合いになりかけた二人の手が止まる。 「・・・・・・ま、まぁ、毎日って訳じゃないし、その・・・・・・将来の勉強にもなるかなって」 美詠は顔を赤くしながらもじもじとし始める。 視線は泳いでいて、時々チラチラと当瑠の方を見ているのだが 上条と当瑠はそれに気づかない。 「将来って、お前もう結婚する相手でも決まってんのかよ」 上条は多少呆れた表情で美詠に問いかける。 「け、結婚!!?そんな事あるわけないじゃない!!」 「い、いやそんなに必死に言われましても困ってしまうのでせうが それに、お前ら兄妹なんだから別に寮生のお前が当瑠と美春に飯作るのなんて不自然じゃないだろ」 美詠がそこで、うぅと呻いて下を向いてしまった。 そしてそのまま何もしゃべらなくなったのだが、その沈黙を 「おーい、あんた等、ご飯できたわよ~」 実際に夕食を作っていた美琴によって破られた。 「どうよ!これが私の実力よ!」 ふふん、と自信満々にどうだ!と言う顔をする美琴。 上条はそれを見て苦笑していたが、盛り付けられた料理を見て驚愕した。 別に料理が特殊と言うわけではない、作られた料理は一般的な家庭でも見られる 大根おろしと和風ベースのソース仕立ての和風ハンバーグなのだが 出来立て感があるジュージューと言う音を立てているし、サイドに盛り付けられている ポテトサラダやそのほかの野菜、そしてついでに作られているコーンスープが 上条の空腹を更に刺激しているようで美琴の言葉も無視して料理を食べ始めた。 「・・・・・・ちょっと、聞いてるの?」 いただきますも言わずに食べ始めた上条に怒るが 「・・・・・・うまい」 「へ・・・・・・?」 「御坂・・・・・・これすげぇうまいぞ!! 上条さんは少しは料理が出来るつもりだったけど なんか自分の自信を壊されるくらい感動した・・・・・・!」 いつの間に食いしん坊キャラになったのか上条の皿にはもう夕食はなくなっていた。 「え?そんなに?うそ?」 疑問符しか出てこないが、美琴は素直に喜ぶ上条の姿が嬉しかった。 「あぁ、本当だ!」 「そ、そう・・・・・・ありがと・・・・・・」 美琴は上条が本心で言ってくれて作った甲斐があったと思う一方で 段々と気恥ずかしさがこみ上げてきた。 「その、子供たちも見てるから・・・・・・恥ずかしいんだけど」 「あ、わ、わりい」 上条もそう言われて冷静になり、美琴の方から視線を逸らす。 美琴もその視線を追ってみると、ニヤニヤ笑う三人組がいた。 「いやー、お暑いですなー、手料理一つでここまで褒めちぎるとは」 「い、いや、それは、その・・・・・・あまりの驚きで我を失っていたと言うか」 「でも、美味しかったんでしょ?」 「ま、まぁ・・・・・・」 「もっとたべたいよね、パパ」 「食べたいです!食べたいですから!もう私めをいじめないでー」 上条だけを苛め抜く三人組。 (未来の私たちも、こんな感じなのかなぁ) クスクスと若干苦笑い気味に笑う美琴、ただ未来の自分と上条を想像して 頭を何度も振って冷静さを取り戻そうとしたが、なかなか想像は頭から離れてくれなかった。 そして、上条がこの口撃の最中、一つの決心をしたことにも気づかなかった。 御坂美琴と上条当麻は常盤台の寮へ続く道を肩を並べて歩いていた。 食事を終えた後、時刻は夜の十時を回っていたが、泊まるわけにもいかず (上条の部屋にはあの三人組が泊まることになったので狭くなりすぎた) 一人で帰るといったら上条が送っていくと断っても譲らなかったので 好意に甘えさせてもらったのだ。 「な、なぁ、御坂」 「何?」 上条が美琴の方を見ずに話しかけてくる、声から少し緊張しているのは分かった。 「その、明日さ・・・・・・お前暇か?」 顔の方はあさっての方向を向いたままだ。 「え?・・・・・・ま、まぁ特に何も用事はないけど?」 答えている美琴の方も緊張が伝わってきてしまい なんとも言えない微妙な空気が二人を包んでいる。 「そっか・・・・・・じゃぁ、あのさ・・・」 まだ言うか言わないか迷っているのか上条の途切れ途切れとなっている。 「明日俺と、どっか、い、いかないか?」 「はぃ・・・・・・!?」 落ち着けと美琴は一度深呼吸する。 「そ、そうね!あの子達も過去の学園都市で遊んでみたいだろうし! 五人でどこか出かけるってのもいいわね」 「あ、あいつらは関係ねぇよ!」 「う、うぇ・・・・・・?」 上条が怒ったような声を上げる。 美琴は何故上条がそんな声を出したのか分からずに訳が分からないと表情でだしてしまった。 「あぁ、でかい声だして悪い、つまりだな、俺が言いたいのは・・・・・・その、あいつらと一緒じゃなくてだな」 「??」 ・・・・・・二人きりでどこか行こうと上条は誘ってきている。 そこまで考えがまとまったところで上条がえぇい!と意を決した声を上げた。 「御坂!!」 あさっての方向を向いていた上条の顔が急に美琴のほうを向き 美琴の両肩に手を置いて体ごと上条の方に向けさせられた。 「ふぁ!ふぁい!!?」 突然の行動に変な変な返事をしたが上条は気にせずに力強い目で言葉を繋げた。 「俺と二人っきりで明日、デートしてくれ!!」 普段の上条の口から出ないようなとんでもない言葉が出てきた。 (え?デートって言った?この鈍感男が?あっはっはー、ないない聞き間違いよね) いつもの上条なら美琴と一緒に外に出かけていても デートとは言わず、引っ張られて色んな場所を回らされている、位にしか思わないはずだ。 しかし、確かに上条はデートと言った、美琴を当然のようにスルーしてきた男がいきなり積極的になった事に 美琴の思考はどんどん冷静さを失っていく。 「ア、アア、アアア、アアアア、アンタががが、わた、わたしと、デデ、デートしたいって?」 噛み噛みで言葉を何とか搾り出す。 「あ、あぁ、お前と二人だけで、えぇっと、遊びに行きたいなぁ、なんて・・・・・・」 上条は妙なダンスでも踊るように体全体を動かして 言葉だけで伝わることをかなり手間をとって説明する。 「・・・・・・い、嫌か?」 上条が心配そうな顔をして美琴の表情を覗き込んでくる。 「・・・・・・嫌じゃない」 その言葉を聞くと心配そうだった表情が明るくなる。 「ほ、ホントか?よ、良かった、断られるんじゃないかと思った」 「こ、断るわけないじゃない!」 好きな人から誘われて、とは流石に繋げられなかったが 美琴は少しだけ素直に返事をすることが出来た自分にも喜ぶ。 そうこうしているうちに常盤台の寮が目前となってきていた。 寮の部屋に戻るのは安心できるが、美琴は寂しさも同時に感じていた。 「も、もう、大丈夫だな・・・・・・じゃぁ、俺は行くから」 行って欲しくない、と美琴は思う。 もう少しだけ一緒にいたい、とも。 「お・・・・・・おい・・・・・・どうした?」 美琴は上条の腕を掴んでいた。 離れていって欲しくなかったからだ、もっと一緒にいたいと思ったから 体が勝手に動いて無意識に上条の腕を掴んだ。 そして、そのまま上条の体を引っ張って、上条の胸に飛び込んだ。 「お、おい!!御坂!!?」 あからさまに困惑する上条。 いきなり引っ張られたのもそうだが、中学生とはいえお年頃の女の子に抱きつかれたとなれば 男性ならば少しは焦ってしまうだろう。 「た、楽しみにしてるから」 「は、はぃ!?」 「あ、明日のこと楽しみにしてるから私をがっかりさせんじゃないわよ!馬鹿!」 「え・・・・・・あ、はぁ、その、なんと言うか、あ、あんまり期待されると逆に緊張してしまうのですが」 美琴はそこで、ぎゅぅっと更に力強く上条を抱きしめた。 体が更に密着するので美琴の柔らかい部分の感触が上条の体に伝わっていく。 「!!みさ、御坂さん!!?あの、あた、あたって!!?」 「・・・・・・」 美琴は離れない。 上条がしっかりと約束するまで離す気は無かった。 「ちょっとーー!?聞いてるんでせうか!?上条さん的には嬉しいんですが! いや、でもちょっとそろそろ離して欲しいと言うか、私めの理性が!崩壊するうううううう! 訳の分からないことを言っているが、上条は無理やり引き剥がそうともしない。 美琴は反応が面白くなって強く抱きしめたまま体を少し動かした。 当然、上条の体には当たっているものが動くのでさらに緊張たように体を固める。 「―――――――――!!!?あああああああああああ!分かった分かりました! 私上条当麻は、あした御坂美琴を必ず楽しませますのでもう離してくださいお願いします!」 「本当?」 「本当です!」 そこで美琴はようやく体を上条から離す。 上条の緊張は一気に解けたのか、呼吸がかなり荒く、腕をだらんとさせていた。 「じゃ、じゃあね、また明日」 「お、おう・・・・・・じゃあな」 上条と別れて常盤台へと向かう足取りは軽かった。 (アイツが誘ってくれた、初めてのアイツとのデート・・・・・・) 嬉しくて嬉しくて寮の部屋に着いて、ルームメイトに怪訝な顔をされても何も気にならなかった、 その夜はお気に入りの寝巻きを着ても、ぬいぐるみを抱きしめても なかなか寝付くことが出来なかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある未来の・・・
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/鶴の恩返し -⑫後日談 みんなでプールへ行ってみようか プール編- 少し時間は戻り………駐車場。 「ハァ…どうしてこんなことになってるじゃん」 バスの中、黄泉川は困っていた。 忘れ去られたように最後列でグッタリしている小萌先生の生徒が一人いた為だ。 「これは……引きずって行くしかないじゃんね」 はぁ…と一つ大きな溜息をつき、黄泉川は未だに気絶している青髪ピアスを引きずってバスを降りた。 プールの受付ホールでは小萌と寮監がベンチに腰掛けて話していた。 「やっぱり息抜きは必要ですよね」 「そうですね、寮にいるとやはり終始目を光らせてないといけませんから」 そういう他愛のない話をしているが、小萌はあることに気付き寮監に聞いた。 「それは大変そうですねー、でも今、寮監さん楽しそうな顔してましたよ」 そう、今少し楽しそうに笑ったのだ。 「まあ、手のかかるのが数人いるだけですが…この仕事結構好きですから」 ああ、寮監さんもやっぱり子供が好きなんですね。小萌はそう思った。 「やっぱり好きな仕事が出来るのっていいですよね」 「ええ、そうですね」 そんな風に話していると黄泉川がやって来た。 「こいつ置いてくなんて小萌先生も寮監さんも酷いじゃん」 黄泉川と一緒に、途中で回復した青髪ピアスが受付ホールに入って来た。 「「……………」」 小萌と寮監は、すっかり忘れてた為に沈黙。 「先生方ひどっ! 絶対みんなも忘れてるはずや……どうせ、忘れられてるんや……」 激しく落ち込んでいる青髪ピアス。 それから、4人は各自のロッカーに向かっていくのであった。 □ □ □ 一方その頃 水着に着替えた面々は、この施設で最大級の中央プール付近に集まっていた。 白い椅子に座る上条と土御門、土御門の傍に立つ舞夏。 「いやー、やっぱり夏といったら水着だにゃー」 アロハ柄の黄色の水着の土御門。 「兄貴、それはいいけどわたしの友達に変なことしたら許さないぞー?」 何故か舞夏はメイド服のままであった。 「水着じゃなくていいのかよ」 「ん? これはだなー上条当麻」 そうもったいぶる様に言うと共に、舞夏はメイド服を脱ぎだす。 「ちょ、おいっ!」 上条の過剰の反応に舞夏は黒い笑み。 「ふっふっふ、何を慌ててるんだー? 下は水着に決まっているだろー」 ………すごく心臓に悪い行為だった。 そこから少し離れたプールサイド。 そこには、黒の水着を着た少年と淡い水色にヒマワリの模様が入った水着の少女。 「ねえねえ、ミサカのこの水着はどお? ってミサカはミサカはさっきから唖然としてるアナタに聞いてみる」 くるくると回って水着を見せてくる打ち止め。 「…………あ、あァ…すごく、いいと思うぜェ」 見惚れてしまった一方通行は言葉少なくそう言った。 その近くの喫茶店。 「妹さん、パフェお待ちどうさまです」 初春はこの間のパフェのタダ券で、御坂妹に初パフェを奢っていた。 「こ、これがあのパフェですか…初めて食べます、とミサカは目の前にした可愛らしい食べ物に目を奪われます」 目の前に出されたのは可愛らしいパフェで、御坂妹はそれを見て目をキラキラさせている。 「ゆっくりと味わって食べてください、この店のパフェはとっても甘くて美味しいんですよ」 一口食べるごとに頬を緩める御坂妹を見て、初春は嬉しそうにその顔を見ていた。 人のいない、いや、近寄れない…とあるプール。 「何故、貴女と二人でこのプールに一緒に入らなければいけませんの?」イラッ 白井は隣にいるムカつく女に向けて感情を込めて言う。 「さあね、そんなに嫌なら白井さん、あなたが別のプールに移動すればいいじゃない」 対して言われた本人、結標は平然と白井に言い返す。 「先にいたのは私ですが?」イライラッ 「だったら尚の事、先に出るべきなんじゃない?」 そう、このやり取りを繰り返されてはこのプールに誰も近づけない。 「「……………」」 しばしの沈黙が続き…… {流石に長く生きてるだけあって、口では負けそうですわ……ププッ} 白井は結標に少し聞こえるような感じで悪口を言う。 「白井さん……何か言ったかしら?」イラッ 白井はニヤッと笑みをつくり。 「さあ~なんのことでしょうか?」 誤魔化す事もしない態度で嘘を言う。 そこからは立場が逆転したりしなかったりで、何度も口喧嘩が始まるのであった。 一方、その頃に吹寄と姫神は…… 中央プールの端で足だけ入れながら何か相談しているようだ。 「私って印象薄いのかな。」 「そんなことないと思うけど?」 ………聞かない事にしてあげた方がいいようだ。 そして、一番遅く入った佐天と美琴はというと…… 「ねえ……佐天さん、なんで私達だけこんな離れた所にいるの?」 「それはですね、上条さんには極上のリアクションを期待したいじゃないですか」 変なスイッチが入ってしまっている佐天に連れられ、中央プールからある程度離れているカフェに来ている。 「それは……そうだけど………なにをすればいいの?」 モジモジと頬を赤らめ、上目遣いで見てくる美琴に佐天は 「それを上条さんに今すぐ見せたいんですけどね」 「ん? なんのこと?」 本人に自覚はないようだ…今のは上条に見せれば、なんでも言う事を聞かせてしまう魔法の様な体勢だ。 「まあ、少し恥らう様にしてみれば、上条さんもぐっときて御坂さんを襲っちゃうかもしれないですね」 そんな風に言って笑う佐天。 「ふーん、襲っちゃうね……って! 襲っちゃうって……えぇぇぇっ!!」 「御坂さん、声が大きいですっ」 「あ……どうもすみません………」 店の人たち全員から注目されてしまい謝る羽目になった。 そんな風に騒がせながらも佐天の意見を聞く事になる美琴。 ちなみに昼食の際はある店に全員集合する事になっているのでそれまでが水着見せの勝負である。 □ □ □ 正午。プールにアナウンスがなる。 『待ち合わせのご連絡を致します。第七学区からお越しの~』 そう、団体で来ている人達にはアナウンスをしてもらえるサービスがあるのもここの売りの一つであった。 『同じく、第七学区からお越しの土御門様御一行は南方フロアの南国プール中州にご集合下さい。』 アナウンスがそう告げ、本日来ているメンバーが南方フロアに向けて移動し始める。 「それにしても、便利なサービスだよな」 上条と土御門、青髪ピアスはアナウンスを頼んだ後に南方フロアに向っている。 「って、そないな事よりも、お前ら薄情もんやー!!! 置き去りにして忘れてたクセにその事を無かった事にするなんてー!!!」 そう、青髪ピアスは大分遅れて合流したのだ。 どうやら皆に存在を忘れ去られ、バスに置き去りにされているところを黄泉川先生が発見したらしい。 「まあ、落ち着くぜよ」 「そうだ、落ち着け」 そう諭す上条と土御門に、しぶしぶ落ち着く青髪ピアス。 「そうそう、そういえば小萌先生たちどんな水着なんやろー」 落ち着いたと言うよりは別の何かを気にしだしたようだ。 「小萌先生はピンクの子供用水着じゃないか?」 「ふっ、甘いぜよカミやん……俺様はあえて黒のハイレグと予想するぜよ」 「残念ながら、ワテは純白の三角ビキニをご所望やで~」 三者三様、今日も馬鹿全開のデルタフォースであった。上条は普通…か? 喫茶店にて 「おっ、集合時間みたいだぞー」 「そうみたいですね」 「それでは行きますか? とミサカは腰を浮かしつつ今更なことを聞いてみます」 パフェを食べていた御坂妹たちは、途中で舞夏が来たのでそのままティータイムに入っていたのだ。 「それにしても、プールに来たのに飲んで食べてしかしてないですね……私達」 「それなら午後はいっぱい運動してカロリーを消費しましょう、とミサカは提案してみます」 喫茶店を出て、南フロアに向け歩く三人。 「そうだなー、せっかくプールに来たんだから泳いだ方がいいだろうなー」 もっともな事を言う舞夏。 「まあ、みさかの妹を見た限りではスタイルはすでに抜群だがなー」 「ちょっ、舞夏さん私を哀れむような眼で見るのはやめてくれませんかっ」 「ミサカは初春さんに同情のエールを送ります、と共にミサカはかすかに初春さんに勝っていることで優越感に浸ります」 フッ、と笑みを作る御坂妹にフッフッフと黒い笑みの舞夏、泣きそうになって落ち込む初春もどこか楽しそうだ。 そして、あの11次元計算娘の二人は…… 「だからっ、貴女はいい加減にストーカーみたいに私の前に現れるのをやめてくださいませんっ!」 「同じ様な思考パターンを持つんだから、仕方ないんじゃない?」 まだ言い合っていた、というか段々酷くなっている。 「大体、以前会った時に思ってましたが……貴女は女らしさと言うものを持った方がよろしくなくて」 「ふん、そんな変態水着を着ている白井さんからそんなことを言われてもまったく同意できないんだけど……」 どっちが正論であろうか…… 変態水着ではあるが口調やら、立ち振る舞いがお嬢様のテレポーター 行動や言動は少しガサツな様子が見受けられるが、スタイルや水着は至って女の子らしいムーブポイント 「それよりも、早く向わない? さっきアナウンスなってたから」 「え、あ、そ…そうですわね」 まあどっちが正論でも、結標が一歩ひいて大人の対応をとった為に一時休戦。 アナウンスにしたがって集合場所に二人で向かう様であった。 そして…… 「結局、上条さんに会えませんでしたね」 「うう……これなら初めから当麻と一緒に回った方がよかったじゃない」 さらっと言ってしまった佐天とは対象的に、美琴は落ち込んでいる。 「でも御坂さん、その水着褒められるか心配してたじゃないですか」 「……それは、そうだけどさ」 そう言った美琴はハァ…と溜息をついた。瞬間。 ギュムッ、と誰かに抱きつかれた。 「お姉さまー、ってミサカはミサカは子供みたいに抱きついてみたりー」 どうやら打ち止めのようだ。 「おいっクソガキィ、走って転んだらあぶねェだろォがよォ……」 その後ろから一方通行が現れる。 「ちゃんと打ち止めちゃんのこと見てますねー、一方通行さん」 「まァ…それが俺の仕事見てェなもンだしなァ」 目を閉じ、めんどくさそうに頭を掻きながら佐天に言う一方通行。 「って、御坂さん? あれ、どこいったんでしょうか?」 「……ガキもいねェってことは先に行ったんじゃねェかァ?」 一瞬、目を放した隙に美琴と打ち止めは見える所から消えていた。 「ハァ……まァ、行った所は多分一緒だからよォ、ぼさっとしてねェで行くぜェ」 一方通行は佐天を促し、話しながら集合場所に向うのであった。 その二人を見送る二人の少女。 「一緒に行かなくてよかったの?」 「うん、ってミサカはミサカはハッキリ言ってみる」 美琴と打ち止めだ。少し行った所の店に隠れるようにして、二人を見ていた。 「あの二人が仲がいいのも不思議よね」 「そお? ってミサカはミサカはお姉さまの一言に疑問を浮かべてみる」 打ち止めのその一言から、普段三人の時はよっぽど仲がいいらしい。 「それじゃ、二人の邪魔しちゃ悪いから少し遠回りしながら行こっか?」 「うん、ってミサカはミサカは意見に賛同してみたり」 そう言って二人は姉妹のように手を繋いで集合場所に向うのであった。 □ □ □ 集合場所にはすでに大人3人組と吹寄、姫神の計5人が来ていた。 「さっそく集まってるみたいで何よりだにゃー」 「それはいいが土御門、店は決めているのか?」 のんびりとした口調で話す土御門に吹寄は少し不機嫌に聞いてきた。 「ん? それなら、あそこの店がそうぜよ」 そう言って指差したのは少し高そうな料理店。 「土御門ちゃん、お金は間に合うんですか?」 小萌先生も心配になる様な佇まいの店だった。 「それも問題ないにゃー、ちゃんと料金面はピンきりで予約できてるぜい」 まあ、後で皆に明細書出すから確認してくれた方が早いぜよ、そう言って土御門は黙る。 {なあ、カミやん……} {どうした青ピ} 土御門が話している最中に青髪ピアスがこっそりと話しかけてきた。 {黄泉川先生の着てる水着きわど過ぎやあらへんか?} その一言で上条はチラッと見てしまった。 {ああ、やばい……というかあんなん着るような先生だったか?} {それは多分、無頓着に選んだんじゃないかにゃー} いつの間にか土御門も戻ってきていた。 {それよりカミやんはこの話題に入ってない方がいいぜよ、このままだと危険すぎるにゃー} {ああ、わかった} そう言って上条はその輪から外れる。 どうやらこの二人は寮監や小萌先生、吹寄の水着を見て意見を言い合っているようだ。 「俺一人で時間を潰すのも無理があるだろ……」 そう上条は言うしかなかった……が {上条、ちょっといいか?} 寮監に呼ばれた。 そして、寮監の傍に行くと小声で問われた。 {あの打ち止めと言われた少女と妹さんと言われていたのは御坂の家族か?} 流石に美琴を預かっている身の寮監は鋭い。ここは隠しておくのは得策ではないと正直に答える。 {……ハイ} {ワケありか?} {……ハイ、ですが美琴の奴も本当の家族のように思ってます} {わかった、理由は聞かないでいてやる……で、それを知っているのはお前だけか?} {ここにいるメンバーだと…俺と美琴、一方通行と打ち止め、御坂妹だけです} {そうか……わかった} それっきり寮監は喋らなくなるが…… 「ふぅ、わかった……上条、御坂を頼むぞ」 「はい」 そうして上条は寮監の隣で待つことになる。 {カミやんの奴、なに話してるんやろ?} 多分、妹達がらみのことだろうな……まあ、寮監は大丈夫だろう、あまり詳しくは聞いてこないだろうからな。 {彼女の事で尋問されてるんじゃないかにゃー? 多分近づけば巻き添いくらうかもしれないぜい} 土御門は青髪ピアスに悟られない為にあえて近づかない様に言う。 {それは嫌やなー、触るな危険ってやつやな} うまくいった様だ。 回避もうまくいった事で、今度は一般のお客の水着を品評する二人であった。 それから結標と白井。初春と御坂妹と舞夏。一方通行と佐天が来て。最後に打ち止めと美琴がやってきた。 全員揃ったことを確認し、昼食をしに向う。 土御門は舞夏と、大人は三人一緒に中に入っていく。 一方通行は佐天と打ち止めと、初春は御坂妹と、結標は白井と… 吹寄と姫神は青髪ピアスを引きずって中に入って行き……上条と美琴が取り残される。 「あの、さ……」 「なによ……」 いつもと同じ二人なのに肌を露出しているというだけで緊張してしまう。 「その水着、似合ってると思うぞ……その、なんだ…ちょっといつもよりも大人っぽくてさ」 緊張からか歯切れの悪い上条。 「え、えっと……ありがと」 美琴は素直に言ってみたものの…… 「ねえ……そんなにいつもの私って子供っぽい?」 当然の疑問に少し悲しくなったりする。 「あ、いや…そういうんじゃなくてだな……想像してたのより少し大胆な水着だったというか……なんというか」 視線を合わせてくれない上条を見て、恥ずかしがってる当麻って少し可愛いかも、と思ったりしていた。 「それじゃ、さっさと入ろうぜ…皆待ってるだろうしな」 そう言って上条は美琴の手を引いて店に入って行った。 □ □ □ 昼食は騒ぎ、はしゃぎ、大いに盛り上がった。 そして、食後……皆それぞれ別れて楽しむことになる。 「それじゃ、帰る時にまたアナウンスを流してもらうからにゃー、しっかりと聞いとくんだぜい?」 土御門が店の前でそう言って散り散りになる。 白井と佐天、初春と御坂妹に美琴と上条で一組。 黄泉川に小萌、寮監と舞夏で二組目。 土御門と結標、一方通行に打ち止めで三組目。 青髪ピアスに姫神、吹寄で四組目。 こんなメンバーに別れて何が起きるといえば……平穏なもの以外のなにかだろう。 それから数時間後……… 「ハァ……なんで俺はこんなことやってんだよ」 上条は一人で6人前の飲み物を買いに行かされていた。 そう、それは数分前。 「だぁっ!!!」 不幸にもプールサイドで足を滑らせた上条は、御坂妹と白井を押し倒した。 結果…… 「あ~ん~た~は~、妹に何してくれてんのよっ!!!!」 美琴はそう言い、御坂妹を引っ張り上げ、上条に電撃をお見舞いした。 幸いにも被害者は2名。その他の被害者は無しであった。 「お、お姉様……私の事は心配してくださいませんのね……」 半泣きでビリビリと痺れる後輩に、美琴は平謝りをする事になった。 上条は打ち消して実はなんともないでいるが……言ったが最後、どうなるか保障されない。 「あの、美琴様……ジュースでもいかがでしょうか?」 笑顔と言う仮面をつけ、今をしのごうとする上条。 「あ、なら私のもお願いしますね上条さん…コカゴーヤです」 「佐天さん、ずるいです…私のもお願いします上条さん…えーと、私も佐天さんと同じ物を」 「それなら、とミサカもあなたに同じ飲み物をお願いしてみます」 ………どうやら上条さんのお財布が軽くなるようです。 「それじゃ、私は黒子の分とふたつ、ヤシの実サイダーお願いね」 「はい……」 という具合だったわけだ……不幸だ。 そうしてドリンクや焼きそばを売っているような店に来て…… 「「いらっしゃいませ、なにになさいますか?」」 どうやら二つあるうちのカウンターに、同時に並んだ奴がいるようだ。店員の声がかぶった。 「「それじゃ……」」 今度は客の声がかぶった。 「ヤシの実サイダーを3つとコカゴーヤを3つ」 「ヤシの実サイダーと黒豆サイダー、あとコカゴーヤを1つずつ」 「「かしこまりました、それでは少々お待ち下さい」」 注文も終えた所で店員が持ち場を離れて飲み物を作りに行った。 「「ハァ…なんで女の子のパシリやってんだ……不幸だ」」 隣の客と同時にまた同じ事を言った……気になって隣を見る。 「「………………」」 その客も気になってこっちを見ていた。 あれ? どっかで見たような気がするんだが……気の所為か? と首を傾げる上条。 こいつってあの時、俺をぶん殴ってあの言葉を言った無能力者だよな……? 「あの……どこかで会いませんでしたか? 俺達」 「え、あ……うーん」 上条がいきなり声をかけた所為か相手の客は少し慌てている。 「ある……と言っていいのか、ないと言っていいのか……」 「ん? どっちなんですか?」 曖昧な回答をする客に上条は不思議な顔をする。 「お待たせしましたー」 その客に注文の品が届き…… 「それじゃ、お先に」 そう言って、客は慌てて走り去って行ってしまった。 「なんだったんだ?」 「お客様、お待たせしました」 「あ、はい」 こっちも来たので、御代を払って美琴たちの元に戻ることにした。 途中、自分の飲み物を土御門に奪われるまでその客の事を思い出そうとしたが、さっぱり忘れてしまうのであった。 一方、逃げた方は…… 「はぁ、はぁ、はぁ…もしバレたらまた殴られんのか? 俺って」 最後に考えていたことはそれだった。 「はまづら、そんなに息を切らしてどうしたの? 」 「超遅いですよ浜面、それに言っている意味が超不明です」 そう声をかけてきたのは、自分に飲み物かって来いと命令した絹旗と、心配をしている滝壷だ。 「わかんなくていいぞ、それに……いや、なんでもない」 「「?」」 頭を傾げる二人、まあ、今はそれでいいかと浜面は思う。 説明するのもめんどくさいしな。 □ □ □ そしてグループの面々は…… 「で? なんで私はあなた達と一緒に行動しないといけないわけ?」 「知らず知らずにこうなってたんだにゃー」 「………………」 不満大有りの結標に、のんびりとしている土御門。 目を閉じ、二人の声にイライラしている一方通行。そして…… 「プールっていいねー、ってミサカはミサカは大はしゃぎっ!」 バシャシャシャシャ、とバタ足で一方通行に水をかける打ち止め。 「あら? ずいぶんと懐かれてるのね……ほんとにロリコンだったのね」 「まあ、それは否定できないんじゃないかにゃー」 さらにイライラし始める一方通行。 「それに……さっきから、結標も小さな男の子が近くを通るたびに目で追ってるみたいだけどにゃー」 ぶっ!と飲んでいたスポーツドリンクを噴出す結標。 「ちょ、あ、ああああああなたに言われたくないわよっ! さっきの昼食中に妹にあーんってねだってる、どっか頭が湧いてる奴に言われたくないわよっ!!!」 そして叫ぶ。 「まあ、俺様は自分がそうしたいから、そうしてるだけだからにゃー……否定はしないぜい?」 不敵に笑う土御門。 「…………」 呆れて物も言えなくなる結標。 すると……打ち止めよりも少し大きい少年が打ち止めの近くにやって来て…… 「君……名前はなんていうの?」 ナンパし始めた。 {ちょ、これはすごく面白い展開じゃない?} 結標は土御門に近寄り、耳打ちする。 {そうだにゃー、一方通行はどういう反応をするのか楽しみぜよ} そして、二人で一方通行を見る……が姿が見当たらない。 {{どこいった……あのロリコンモヤシ}} 見当たらないので打ち止めに視線を戻すと…… ガクガク、プルプル、と怯えているナンパ少年がプールで泣いていた。 「「予想通りの行動(だにゃー)」」 実は少々誤解が生じるかもしれないので説明しておこう。 少年がナンパし始め、結標と土御門が打ち止めから目を逸らした瞬間…… バッと一方通行は打ち止めをすくい上げ、肩車して少年に尋ねた。 「ガキ……ナンパするのはいいけどよォ、一生テメェの命張って守る覚悟があるなら交際を認めてやる」 「ハァ? なに言ってんのアンタ?」 「ハァ……、どうしようもねェ、ヤロォだなァおい」 「つーか、アンタだれよ? その子のお兄さんかなんか? 恋人ってわけじゃなさそうだし、つか恋人だったら引くわ」 ギャハハハと笑う少年。次の瞬間、一方通行はその少年の近くに音も無く移動し、耳元で…… {恋人じゃねェ、保護者だァ……あと言っとくがよォ、好き奴でもねェのに口説くたァ舐めた真似してるじゃねェの……次そんな事してるとこ見たら解体してやっからよォ……覚悟しとけェ、いいなァ?} ピッっと最後にプールの飛沫を飛ばし、少年の頬を薄く切り裂き、脅す。 そうして水の上を静かに駆けて場を退散するのであった。 そして、残されたのは一生ナンパのできない身体になった少年と土御門と結標。 「あのロリコンが去って、シスコン猫語男と二人きりって最悪の展開じゃないかしら」 「こっちはショタコン露出女と一緒なんてにゃー、もう少し恥じらいを持って欲しいぜよ」 「ちょっ! 今日来てたメンバーの中では結構露出少ないわよっ!」 「いつもがいつもだからにゃー」ガクガク 首を絞められガクガクと揺すられる土御門。 あ、すこし結標の胸が当たってるにゃー、幸せ? うーん、微妙なんだにゃー 別の思考をしている土御門だが結標は気付かない。 「まあ、それ以上言うなら大恥かかせてやるから覚悟しておきなさい」 「まったく、わかったぜよ」 少しだけ離れた結標に、あれ? すこし残念な自分がいるにゃーと思う土御門だった。 それから、上条が飲み物を買いに行っているのを見て土御門は 「ちょっと、トイレ行ってくるにゃー」 と言って去ってしまい。 「私も白井さんでも探そうかしら?」 と結標もプールサイドから腰を上げてどこかに向うのであった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/鶴の恩返し